50年目のラブレター 10 刹那

夕刻遅く帰宅したつくしを家族みんなが心配していた
母は酷い仕打ちをされなかったのかと聞き
祖母も、こんな遅い時間まで働かせてと言い
弟の進に至っては、「姉ちゃん、おみやげないの?」と
つくしのことより、もしかしたらラムネを買って来てくれるのではと
期待していた

祖父は何も言わなかったが
つくしが風呂敷を大事にそうに抱えていたのに気がつき

「それは何だ?」と尋ねてきた

つくしが風呂敷に目をやると嬉しそうに

「これね、坊ちゃんが家族みんなで食べてくださいって
 持たせてくれたの・・・・」

家族の目の前で風呂敷を広げ、玄米を見せた

「へぇーあの出来が悪いって噂の坊ちゃんがかい?」
母、千恵子の物言いに腹を立てたつくしが

「坊ちゃんは、そんな人じゃない」
「そんな言い方するなら食べなければいい」と
珍しく声を荒げて言い返してきた

祖父が、つくしをなだめるように
「坊ちゃんは、世間の噂程、悪いお人じゃないよ」

「つくし、お風呂もらっといで」

祖父の優しい声で、消化しきれない気持ちを閉じこめ
2軒先の家へ貰い湯をするため支度をして出かけて行った
この時代、家に風呂がある家庭が少なかった為
持ち回りで風呂を沸かし夕方になると子供が
「お風呂沸いたよ」と近所に知らせる風習があった

つくしが、貰い湯に行ってる間、祖父が

「道明寺さんに迷惑がかからないよう
 この事は誰にも言うんじゃないぞ」と家族に釘を刺した

道明寺家から貰った給金は、一部を貯金し
残りは母に手渡していた

貰い湯から帰って来たつくしはすぐ布団の中にもぐりこみ
母や祖母が言った司の悪い噂に心が痛み
中々寝付けずにいた

司も同じで、楽しかった一日を思い出し
目が冴えて眠れず、明日もつくしに会える
そう思いながら、気が付くと眠りに落ちていた

=======*========*=======

「タマー!!!タマー!!!」

「何ですか、坊ちゃん!騒々しい・・
 はしたのうございます」
朝から司が大声でタマを呼ぶ声が邸内に響いていた

「つくしが汗をかきながらここへ来る
 氷水とタオルを用意しといてくれ」

昨日の汗だくのつくしを思い出し、
少しでも不快な思いをさせないようにとの司の気遣いだった

「はいはい、かしこまりました」
「随分、気が利きますね・・・」
「つくしは、坊ちゃんの大切なお友達ですから
 粗相の無いよう邸の者にも申し伝えておりますので」

「あいつは友達なんかじゃねぇよ」

「じゃあ、何でございますか?」

タマはからかったつもりだったが司の思いは別の場所にあった
まさか司が、つくしの事を見初めているとは
タマとて考えもしなかった

「いってきます!」
「気をつけていっといで!」

いつもと変わらない朝を迎え、いつもと変わらない服装で
いつもと変わらないお下げ髪で、
いつもと変わらない麦飯弁当と水筒を持って、
変わったのは司に対する気持ちだった
つくしはその気持ちが恋だと気がつかないふりをした
身分が違う・・・・けして心をとかしてはいけない人
心を寄せてはいけない人だから・・・・
「私は坊ちゃんの話し相手だけなのだから・・・」
そう言い聞かせて、いつもと変わらない笑顔で家を出た

司は、つくしの到着を今か今かと待ちわび
何かを楽しみにする、心待ちする感情を
長い間、心に閉じ込めてきた

子供の頃、両親に構って貰えず、ばらばらの家族であっても
親が外出先から帰って来るのを待ちわびて
そんな司の気持ちも知らず両親から
「こんな遅い時間まで起きてるのか」と叱られた
何かに期待するのは愚かで馬鹿げたことだと気がついた時
司は、笑わなくなった
心に蓋をしてしまえば傷つくこともない
つくしの存在は、司にとって特別な人になっていた

暑いから外に出たくないと言っていたのに
つくしが来るのを待ちきれず、麦わら帽子をかぶり
門扉の外で彼女が来るのを待っていた
なかなか来ないつくしに、

「もしかしたら、あいつは来ないのかも知れない・・・」

期待すれば悲しい思いをする・・・
「俺は・・・いったい何をやってるんだ・・・」
浮き浮きした気持ちが、あの時のようになるのではないかと
不安になり、悲しさと怒りがこみ上げてきた
馬鹿馬鹿しい・・・・

遠くから楽しそうな鼻唄が聴えてくる
耳障りだと思い、邸内に戻ろうとした司が振り返ると
坂道を歩いてくるお下げ髪つくしが手を振っていた
司は嬉しさのあまり、気がつけば、つくしの元まで駆けだしていた

「坊ちゃん、おはようございます」
ペコリと頭を下げた

「おはよう」

「こんな所で会うなんて、どちらかお出かけの予定でしたか?」
つくしの言葉に、何だか可笑しくなってきて
司は、優しく微笑んだ
麦わら帽子から覗く司の優しい目に、つくしはハッとして目を伏せた
司は、自分の被っていた麦わら帽子をつくしの頭に乗せ
「日差しが強いから、被っとけ」つっけんどん答えると
前を向いて歩き出した

その半歩後ろをつくしが歩き、歩き出すと大きな麦わら帽子が
目線まで落ちてきて鼻先と口元とお下げ髪の半分しか見えず
その姿を見た司が
「お前、子供みてぇだな・・・・」そう言うとまた微笑んだ
不器用な司の優しさに惹かれていくつくしは
前を歩く司の大きな背中を見つめ
いつか自分の役目も終わる時が来る・・・そう思うと
かつての司のように、そっと自分の心に蓋をした


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「麦わら帽子と夏の空」

イラスト提供 すてらさん

すてらさんのイラストサイト↓

花男のイラストや、ちょっと面白いイラストもありますよ!

花のいのちは結構ながい
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  • Ranmaru*
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Re: No title

 瀬奈さま

おはようございます
毎回、面白い実話をありがとうございます!
女の集まりほど怖いものはありません
昔から、そう言う集まりが苦手です
私は協調性がないので誰かに合わせたりするのが苦手なので
自分のやりたいように自分のペースで行きたい方です
単身の方が何かと動きやすいですから

お母様、粋な方ですよね
男友達さん、もしかして長年、瀬奈さんに片思いしてらっしゃるのかな?
そう言う男子は貴重ですよ(笑







😃😃😃

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