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鍾愛 58

遅い夕食を食べ終えたのは、日付が変わる直前、午前0時前
邸に居たときは、仕事から帰っても、これと言ってやることもなく
持ち帰って来た仕事を片付け、眠くなれば、ベッドへ潜り込む
そんな生活をしていた。リア充とは、ほど遠く
少しばかり、興味を持った女をデートに誘っても
どの女も、同じリアクションをし、同じ言葉を吐く
ウンザリした俺は、総二郎の3回ルールを真似て、
4回目は、容赦なく切っていた
いつしか、感情もなくなり、相手の思惑を試すのが
楽しくなって、次の女は、どうやって、
俺に、近づいてくるのか?心の底で、馬鹿にしていた

つくしも同じ。勘違いしないだろうと思い、声をかけ
適当に、終わらせるはずだった
ひたむきに生きる逞しさと、純心さと恥じらいを持つ女
同情心から始まり、放っておけない存在となり、
俺の事を好きだと言ってくれる言葉を期待していた
キッチンから、聞こえてくる、慌ただしい音に耳を傾けながら
柄にもなく、家庭と言う名の幸せを手に入れたくなっていた

明日、総二郎達を誘って飲みにでも行くか
ソファーに置いた、ビジネスバッグからスマホを取り出すと
案の定、姉貴から、鬼のような着信記録が残っている
電話を入れれば長くなりそうだ
また、連絡するとだけ書いてメールを送信する

「凄いね!食洗機って便利だね。びっくりしちゃった
 忙しい主婦には、大助かりなアイテムだよ」

片付けが終わったつくしが、リビングに戻ってくると
興奮気味に話しかけてきた。何にでも、すぐ感動する女だ

「主婦になる決心がついたのか?」

意味は無く、軽い気持ちで聞いてみたのに
つくしは、しばらく考えて、思いを伝えてきた

「あたし・・・どこの誰かもわかんないんだよ
 司のご両親が反対する気持ちもわかるんだ
 それなりの家柄の人と結婚して欲しいって言うのは
 純粋な親心だと思う。育ちの違いって、大きいから」

「実の親のこと知りたくないって言ったよな
 本当は、どう思ってんだ?」

「知りたい・・・でも、怖い
 邪魔になったから、捨てられたのかと思うと
 立ち直れないかも知れない」

「確かめてもいないのに、邪魔になったかどうか
 わかんねぇだろ?俺と一緒に探してみるか?」

「今は、いい。決心がついたら、一緒に探して
 あたし、ママから、持ってなさいって言われた
 お守りがあるんだ。多分、それって、
 実の親の手がかりなんだと思う」

「見せてくれ」

叔父は、つくしの事を知っていたのか?
知っていたのに、自ら命を絶とうとするのか?
叔父の性格なら、つくしの存在を知れば、命がけで
守ったに違いない。なぜ?死を選んだんだ・・・

ベッドルームにあるクローゼットからつくしが持ってきた
箱を開けると、1988年から2000年までの約12年間製造された
ロレックスのデイトナが入っていた
ガキの頃、この時計に憧れ、叔父に欲しいと
駄々をこねた記憶がある。
司が、20歳になったら譲ってあげるからねと言っていた
叔父の形見として、肌身離さずつけていたいと思い
どれだけ探しても見つからなかった時計を
つくしが持っていたとは・・・

「これね、ママの亡くなったお爺ちゃんの形見だから
 お守り代わりに持ってなさいって渡してくれたの
 おかしいでしょ?お爺ちゃんは、あたしが生まれる
 前に亡くなってるし、お守りなら、あたしじゃなく
 ママが持ってても不思議じゃないのに・・・
 だから、本当のお父さんの物じゃないかと思って」

「触ってもいいか?」

「うん」

文字盤の裏を見れば、アルファベットで、
叔父の名前が刻まれていた。24年目の再会
こぼれ落ちそうになる涙をこらえると
俺は、その時計を、ぎゅっと握りしめていた

「これは、お前のお守りだ、
 無くさないように、大事にしとけよ」

運命と呼ぶには、あまりにも切なくて、苦しい

「そろそろ寝るか」

「ほんと、もう、こんな時間。一人で寝れるから仕事片付けて」
 
「いや、今日は、やめとくよ」

つくしに腕時計を返して、一緒にベッドルームへゆく
俺が先にベッドに入り、つくしは、クローゼットの奥に
腕時計を仕舞い込んで、布団の片側を開けてやると
そっと入ってきた

お前の父親は、捨てたんじゃない
お前のことを心から愛していた
そう言ってやりたいのに、今は、言えない・・・
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