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鍾愛 60

椿の電話を切った後、司は、いつもと変わらぬルートで社に向かう
車窓から街に目を移せば、昨日の雨で、桜が散って
アスファルト一面、ピンク色の絨毯になっていた
つくしが見たら、喜ぶだろうな・・・・
誰かに想いを巡らせるなんて、とうに、忘れていた感情なのに
風と共に舞う桜吹雪を見ながら、これまで自分がしてきたことの
愚かさに気がづき、深いため息を漏らさずにはいられなかった

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混雑した都内の渋滞を抜け
司を乗せたメルセデスが、地下パーキングに到着する
いつもは、そこにあるエレベーターに乗って、
エグゼクティブルームへと直行するのだが
その日は、歩いて、正面玄関に向かった
曇り空の切れ間から、少しだけ太陽が顔を覗かせ
光陽の柱が、司の背中に降り注ぎ、
まるで、スポットライトを浴びているようだった
司は、目の前にそびえ立つ道明寺HDの高層ビルを見上げ
ニャリと笑う

「帝王は、一人しかいらねぇんだよ・・・」

両親に対する宣戦布告とも取れる言葉をつぶやき
ゆっくりとした足取りで中に入って行った

「おはようございます」「おはようございます」

朝の挨拶が飛び交う、エントランスフロアーは、
出社してくる社員達で溢れかえり、
ラッシュアワーのようになっている
そんな中、一瞬の静けさの後、どよめきが起こった
殆ど姿を見ることのない、司が正面玄関から入って来たからだった
人波が二手に分かれ、道を作る
誰かが指示した訳でもないのに、そこに居た社員達は
軍隊さながらに、一列に並び直立不動で司を出迎えていた
司が目の前を通り過ぎる度に、ドミノ倒しの如く
順々に、お辞儀をしてゆく
行列は、エレベーターまで続き、少しでも近い場所で
司の姿を見たい社員達は、争うように場所を確保していた
エレベーター前で待ち構えていた西田は、
その様子を目を細めながら見ていた
父親の誠でさえ、社員達から、こんな出迎えを受けたことがない
過去に、たった一人・・・司とは違うカリスマ性を持つ男が
道明寺家にいた。道明寺望。司の叔父だ

「おはようございます」

「おはよ」

西田と挨拶を交わし
停めてあったエレベーターに、乗り込みドアが閉まった瞬間
エントランスフロアーは、社員達のウワーーーっと言う
歓喜に似た声が広がっていた
中には、司の姿を初めて見た物も居る
興奮冷めやらぬ話し声が至る所で聞かれ、
一日中、司の話題で持ちきりだった

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チーン

エグゼクティブルームに到着し、
西田が、一日のスケジュール報告するため一緒に入って来た

「昨日は、すまなかった。迷惑かけたな」

「いいえ、とんでもございません」

どっかりとソファー坐る司が西田に詫びと礼の言葉をかけていた

「望さまに、お嬢様がいらっしる事は、存じ上げませんでした」

ファイルを抱えドアの前に立つ西田にチラリと目をやった
その口ぶりから、何か知っていると察した司は
自分の前に、坐るように促していた

「何か知っている事があるのなら、教えてくれ」

望が亡くなったのは、司が3歳の時
当時、西田は、道明寺財閥の社員として働いていた
少し考えた後、西田は、重い口を開いた

「私は、望様に、拾って頂いた人間です
 あの方と出会わなければ、
 私は、まともな人間でいられなかったかも知れません」

妥協を許さない、絵に描いたような生真面目な男から
思いもよらぬ言葉が返ってきた
正義感が強い彼は、大学卒業後、ジャーナリストを目指し
弱きを助け、強きを挫く。ペンは剣よりも強しと言う思いで
名の通った、経済誌を専門に扱う会社に就職した
夢を抱いて飛び込んだ業界で見たモノは、
政財界、ヤクザが手を組み、欲望にまみれた虚像の世界だった
西田とて、奇麗事ばかりでないのは承知の上だったが、
社長は、暗黒界で恐れられているフィクサー
ヤバいことを書かれたくなければ、金を出せと、
ヤクザのみかじめ料に似た、法外な金銭を要求する
若い西田は、いつしか社長に手腕を買われ右腕となって
善も悪もわからない暗闇に堕ちていた
悪を挫くはずが、自分が悪の片棒を担いでいる事に
悩み苦しんでいるとき、財界人のパーティーで望と出会った
キレ者だと噂は聞いていたが、西田が想像していた
強面の男かと思いきや、柔らかい物腰と、優しい目をした男だった

もがき苦しむ西田の事に気がつき
私と一緒に、夢を見てみませんか?と声をかけてきた
その一言に救われ、望の手を握りしめ、
人目もはばからず号泣した事は一生忘れられない
話を聞いてもらえるだけで良かった
その場限りの慰めに似た口約束だと思い込んでいたら
貴方の決心がついたら、お越し下さい
いつでも門戸は開いていますと手紙が届いた

雑誌社を辞め、新たなスタートを切った道明寺財閥も、
あのどす黒い世界に似ていた
その中で、たった一人、闘う男が望だった
両親、兄のやり方に反発して、変わり者の烙印を押されながら
正義を貫いていた
この男となら、一緒に夢を見られる
そう思い、がむしゃらに働いてきた

司は、西田の話を聞くことが辛すぎて
拳を作ると、怒りで震えていた
話は、続きがあって、望の死の原因と、つくしの母の行方を
知ると手かがりになりそうだと耳を傾けた

望の片腕になって間もない頃
道明寺財閥が、どうしても手に入れたい土地があり
そこには、老舗の音響機器メーカーが業を営んでいた
安価な外国製品に押され、経営状態が悪化、
目をつけた道明寺財閥が、一気に叩き込んで倒産に追いやった
望は、事実を知って激怒し、社長に土下座して詫びを入れ
再建に向け奔走していた
門前払いを受けながら、毎日通いつめ、当時、高校生だった
社長の娘、琴美といつしか恋仲になっていた
その琴美が、つくしの実母であろうと、西田が話してくれた
道明寺家は、ふたりの結婚に反対し、仲を裂くため望をN.Yへ行かせ
業績を伸ばせば結婚を認めてやると言われた
西田が、望と最後に会ったのは、N.Yに立つため
見送りに行った空港だった

司は、西田がいることも忘れ、とめどもなく涙が溢れてきた
望の事、つくしの事、今、自分達が、
同じ様な状況に置かれていることが一気に重なり合わさっていた

「どうして、叔父は、道明寺を捨てなかったんだ」

「それは、残された社員達の事、琴美さまの事を
 お思いになったからだと・・・・
 N.Yに旅立たれ、望様から、琴美様の事を託されました
 ですが、私が気を許した隙に、一家離散となって
 行方不明になってしまわれました」

「親父達が、トドメを刺したのか?」

「・・・・・・黙っているつもりでした
 司様が、望さまの事を知ると、お辛くなる・・
 そう思い、話さずにおりました。まさか、望様にお嬢様が
 いらっしゃり、司様と出会っていたとは・・・」

「話してくれて、ありがとう」

「申し訳ございません。
私は、望様と一緒に夢を見る約束を
 しておりました。その夢を、司様と共に叶えてみたい
 そう、思っております」

西田は、司にエールを送り、部屋を出て行った
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