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鍾愛 66

「まだ、ご機嫌ななめか・・」

翌朝7時過ぎ、目が覚めた司は、眠い目を擦り
隣のベッドに目をやる。背を向けたままのつくしを見て
女ってやつは・・・全く・・・
怒ってますって態度を見せつけておきながら、理由は言わない
やれやれと、ベッドルームのドアを開けた
がらーんとした部屋は、昨日の朝とは大違いだ
キッチンに立ちつくしから教えてもらった、コーヒーメーカで
コーヒーを淹れている間
朝刊代わりに、スマホでネットニュースを閲覧する
大手自動車メーカが、タクシー業界に参入すると言う記事が
目についた

ダーティワークのイメージがついた父、誠は、
お金に執着するのに、商才がないのが致命的だった
鉛の弾を浴び、ハクがついたとすら思うのは、
見た目の強面さと、銃撃されたエピソードが
相手を威嚇させる武器となっている事を知っていたからだ
永田町の住民を札束と言う餌を与えて飼いならす才能にも
長けている
そればかりでは、企業のドンは務まらない
破天荒な誠の足りない部分を補っていたのが、
弟である望と妻の楓だった
司は、始めから、誠のことは眼中にはない
厄介なのは、母、楓の方だ
つくしといい、楓といい、女と言う生き物は
理解出来ない事が多すぎて、手強いと、
今更ながら、再確認せずにはいられなかった

コーヒーを飲みおわると、丁度いい時間になっていた
身支度をして、起きてこないつくしに
「いってくる」と声をかけて、部屋を出た

「おはよ」

「お前も、今からか?」

エレベーターの前で、出勤する類と出くわす

「そう。もう少し休みが欲しいところだけどね
 つくしちゃんと仲直り出来た?」

「喧嘩もしてねぇのに、仲直りもクソもねぇだろ」

「わかってないね・・・滋と桜子を呼ぶからだよ」

つくしの機嫌の悪い理由を類が、いとも簡単に解決してくれた
チッ、そんな事か・・・良かれと思った事が逆だったとは
類の言葉で、ようやく気がついたのに、部屋をノックして
つくしの誤解を解く時間は、司には、許されてない
俺より知ってやがる・・・片眉をあげるおなじみの表情を作ると
黙り込む

チーン

「迎えは?」

「俺?いない」

「一緒に乗ってくか?送るよ」

親指を立て、マンションの入り口に、停まるメルセデスを指す

「マイカー通勤してんだ」

そう言って、フロアーの片隅に置いてあった
マウンテンバイクを指さした

「チャリ通勤か?」

「渋滞も気にしなくていいし、一番効率的でしょ?」

相変わらずだ・・・類の自由な発想は、時々羨ましいと
思うことがある。大企業の跡取り息子なのに
自分には、とても無理だと思う冒険もする
昨日の、バッタとりもそうだ

「気をつけていけよ!」

「司も」

リュックを背負い、スーツ姿でサラ髪をなびかせながら
走り去って行く類を見送り、司も、車に乗り込んだ

==========
つくしは、そーーーぉっとベッドルームのドアを開け
司が、出て行った事を確認すると
クローゼットの荷物をまとめて、エレベーターの前に置き
大慌てで身支度をしていた
8時半に到着するようにタクシーを呼んでいる為だ
夜逃げならぬ、朝逃げ
とりあえず、住んでたアパートに帰ろう
さよさらの言葉をつぶやくと、部屋の鍵を閉めた

==============

「ぎぇぇぇぇぇ!なにこれ!」

アパートに到着すると、つくしが持っている鍵では扉が開かない
隣の敷地に住む大家に電話をかけ、事の顛末を話すと
アパートまでやって来た

「あら、牧野さん、どうしたの?」

「部屋に入ろうと思っても、開かないんです」

「そりゃそうよ。鍵変えたんだから」

「何でですかぁぁぁ!」

「何でって、あの部屋、解約したでしょ?」

「した覚えありません!」

「ええ?牧野さんの婚約者って名乗る、いい男が来てね
 近々、結婚して引っ越すから、解約手続きしてくれって
 いい人、見つけたね・・修繕費とお世話になったお礼だって
 結構な額まで頂いて・・・」

「あんちくしょぉぉぉぉ!勝手になにしてくれてんのよぉ!
 解約は、無かったことにしてください」

「それは、無理だわ、もう人が住んでるから
 夫婦喧嘩でもしたの?お金持ちだわ、いい男だわ
 言うことないのに。我慢も結婚生活には必要よ」

大家に軽くあしらわれ、行き場を失ったつくしは
待たせていた、タクシーに仕方なく乗り込んだ

「一番近い、ネットカフェに行って下さい」

「ネットカフェですね」

運転手が、ルームミラーからチラリと視線を投げかけて
確認してきた
お金もないのに、家なき子って・・・つくしは、一気に不安に駆られる

「ありがとうございました」

運転手が、ネカフェに荷物を運ぶのを手伝ってくれたおかげで
助かった。よし!住処を探さなければ!
あたしは、名の通り逞しい女
諦める事は、嫌と言うほど慣れている
今までだって、そうして来たのだから、
これからも、そうして生きていく!あらたな決意表明を
自らの心に誓い、近場の不動産屋に、突進する

「どのような、お部屋をお探しですか?」

「お風呂とキッチンがあれば狭くても、古くても構いません
 それと、駅近でなくともOK。とにかく安い!
 それで、探して下さい」

「ご予算と地域は、どうなさいますか?」

「管理費込みで6万以下でお願いします!
 この際、事故物件で、幽霊の嫌がらせとか
 同居とかも、全然、大丈夫!とにかく安い物件で!」

つくしの迫力におされた、不動産屋は、早速パソコンに向かい
物件をチェックしだす

「ほんとに、事故物件でもいいんですか?」

「構いません!あたし、こう見えても強いですから」

「私と、デートしてくれたら、良い物件ご紹介しますけど」

「はぁ?」

そう言って来た不動産屋は、中年にしては、いい男だ
きれいな二重まぶたで、眼鏡がインテリジェンスな雰囲気を
醸し出している

「な、なに言ってんですか?」

「こう見えても、花の独身!身辺はきれいなもんです
 デートと言っても、ご飯食べて下さるだけで良いんです
 お一人様って、気楽ですけど、ひとり飯は、侘しいもんで」

初めて会った客をナンパするなんて
なんて、軽い中年オヤジなんだ・・・
つくしは呆れてしまい、結構ですと席を立とうとした

「今のは、ジョーダンです。ご案内します」

条件に合う空き物件を手早くプリントアウトすると
ちょい悪オヤジな男が、車を取って来ると言い残して
店を出て行った
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