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鍾愛 69

「西田、色々、すまなかった」

社内のエレベーターに乗り、西田は驚いて司の顔を擬視した
つくしと出逢ってから少しずつ変わってきているのが
手に取るようにわかる。恐らく、司本人も気がついているはずだ
27歳の若者にしては、躍動感を感じた事など一度もなかった
常に、苛立ち、満たされない心にもがき
諦めに似た気持ちを抱えていた
心根は優しいのに、不器用すぎて、上手く伝えられない事で
まわりに誤解され、それでもいいと気にも止めていなかった
そんな、司の心の引き出しを、意図も簡単に開けた、
つくしの存在は大きい
心の拠り所であった叔父、望の娘でもある、つくしは
司に取って、諦めていた事、全てを満たしてくれるかも知れなかった
なのに・・・・そう簡単にいかないのが人生と言うものなのか

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「まだいるのか?」

「はい。長期滞在のご予定だとか」

エグゼクティブルームに戻った司は、デスクに坐り
パソコンに目をやりながら西田に、誠と楓の様子を聞いてきた
うちのトップは、そんなに暇なのか?俺の結婚を
血眼になって妨害するなんて、道明寺の未来もたかが知れてると
哀れむように、鼻で笑う

ホールディングスとは、日本名でいうところの持ち株会社で、
グループ会社の株式をホールド(Hold=保有、保持)するところから名付けられている
直接事業展開するのは、傘下のグループ企業であり
グループの株を保有して大株主として得た配当金が収益となる
とは言っても、統括、指揮を執るのは、
親会社のホールディングスで
このような形式を取るのは、傘下のグループ企業を
外部の企業に買収されるのを防ぐため
言わば、乗っ取り防止と、子会社からの配当金を
不算入する事が可能なため節税対策にもなっているからだ
道明寺の血とブランド名を重んじる両親
経営難に陥った時、莫大な資産を投じて
立て直しをはかるのか?それとも身売りして、資産を守るのか?
血と財産と名声。どれが欠けても我慢ならない強欲な両親が
どちらを選ぶのか?興味ある選択だと、司は、思っていた

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「すみません。寄り道してもらってもいいですか?」

「畏まりました。どちらまで」

「一番近いデパートまでお願いします」

司と別れた後、つくしは
ネカフェに家出の荷物を取りに行き、
運転手にデパートまで連れていって欲しいと
申し訳なさそうに頼んでいた
司は、雇用主であっても、自分は部外者で関係ない
少し時間がかかるかも知れないから先に帰って欲しいと
伝えたが、ごゆっくりと、運転手は、真摯な態度を崩さなかった
つくしは、デパ地下で、軽食とコーヒーを買い、
運転手に届けてから目的の物を探すことにした

やって来たのは、時計売り場
モスグリーンをベースに、ブランドロゴが入っているフロアに
恐る恐る足を踏み入れると、上品な男性スタッフが
営業スマイルで近づいてきた

「いらっしゃいませ」

ショーケースを眺めるつくしは、思わずため息がこぼれた
司がはめていたデイトナは、ゼロが一桁違う金額
とても手が出ない

「あの・・・100万以下で買える物を探してるんですけど」

「畏まりました、おかけになって、お待ち下さい」

商談で使うテーブル席に促され
店員は、にっこり笑うと、ショーケースの裏側に移動し
何点か、時計を選んでいる
つくしは、場違いな高級店にいる事だけで、緊張して
嫌な汗が、じんわりと出てくるのがわかった

「右から、エクスプローラー、エアキング、デイトナジャスト
 でございます」

5分程して、戻って来た店員が、商品の説明をしてくれたが
プライスカードの桁を数えるのに必死で、聞いていなかった
どの時計も80万前後はする

「お勧めは、どれですか?」

「どの時計も、ビジネスでも、オフタイムでも、お使い頂けます」

迷うなぁ・・・司の事を思い浮かべながら直感で選んだのは
エクスプローラー

「プレゼント用でお願いします」

「畏まりました」

みすぼらしい格好をした、あたしが高級時計を買うなんて
ホストにでも、プレゼントするようにしか見えないかも知れない
自分を卑下しながら、バッグの中に手を入れ
ICキャッシュカード対応のATM機で、
下ろしてきた全財産を支払い、品物を受け取って
ぎこちない笑みを浮かべて店をでた
エレベーター前までくると、やっと緊張も解けて
ホッとため息をついていた

さほど迷わず選んだつもりなのに、時計を見れば
デパートに入って1時間近く過ぎている事に気がついた
平日なのに、店内は、それなりの人出で賑わっている
王冠マークが入ったモスグリーンの小さな紙袋を手に持って
運転手が待つ、パーキングへかけ足で向かう

「おかえりなさいませ」

「すみません。遅くなりました」

「とんでもございません。これが私の仕事ですので
 お気遣いのないように・・・」

運転手が穏やかな笑みを浮かべ、ドアを開けてくれた
走りだした車の中から、街並みを見ると、つくしの目に
飛び込ん出来たのは、某有名ビルの巨大ビジョンだった
夕方のニュース番組がすでに始まっている

==========
「お疲れさまでした」

暮れそうで暮れない夕暮れ時
午後6時を過ぎても、外はまだ明るく、ゆっくり日が落ちて行く
つくしは、車から下りて、辺りを見渡した
住んでいたアパートは、外で遊ぶ子供達の
バイバイと言う声が夕刻を知らせていたのに
高級住宅地に建つマンションは、それさえも聞こえず静かだった

「ありがとうございました」

「いいえ、こちらこそ、お気遣いを頂き、ありがとうございました
 では、また明日、お迎えにあがります」

荷物を、専用エレベーターに運ぶと運転手は
温和な笑みを残して帰って行った
ドアを開け電気をつけるほど暗くもない部屋の窓から
夕日が空をオレンジ色に染めている
なんて、もの悲しくて美しいんだろう
つくしは、しばらくの間、無心で魅入っていた

「あっ!いけない・・・」

片付けて、ご飯作らないと・・・
でも、ちょっとだけ・・・ソファーで仮眠するつもりが
疲れからか、深い眠りに落ちていた

================
脅かしてやろうと、仕事を終えた司が、インターフォンを鳴らさず
そっとドアの鍵を開けて入ってきた
真っ暗じゃねえか。つくしは居ないのか?
玄関のセンサーが感知して、明かりを灯したおかげで
廊下の照明のスイッチを入れリビングまでたどり着いた
用心深くリビングのドアを開け、異変がないか確かめる
ソファーで眠るつくしの姿に、倒れてるのかとぎょっとして
慌てて近づき、揺り起こそうとしたところで気がついた

「寝てやがる」

ダラリと下がった、つくしの右手に、モスグリーンの小さな紙袋が
握られていた
中身は、見ずとも紙袋の大きさと色で何が入っているのか
司には、わかっていた

つくしの目の前に、あぐらをかいて坐り
無防備な姿で寝息をたてる寝顔を見つめ
気にしてたのか・・・と呟いた
スーツの上着を脱いで、つくしの身体にかけてやってから
起こさないように、そっとベッドルームのドアを開けた
必要なものは、ここから使えと
ベッドサイドの引き出しに現金の入った封筒を入れておいたのに
手付かずのままだった
遠慮しているつくしの気持もわかるが、微妙な距離を感じでしまい
司は、寂しさを感じていた

ザァァァァーーーー

シャワーの音で目が覚めたつくしは、クンクンと匂いを嗅ぐ
司の匂いがする!帰ってきたの?気がつかなかった!
ガバーッと起き上がると、あまいコロンの移り香のするスーツの
上着が、はらりと腰の辺りまで落ちた
バスルームに行くと、シャワーを浴びる司の大きなシルエットが
磨り硝子越しに見える
つくしは、ぼやりと見える司の姿を膝を抱えて見つめていた

ガラガラ

「お、お帰り・・・」

突然開いた、バスルーム扉
ストレートになった司の髪から、ポタポタと滴が落ちて妙に、
色っぽい

「なにやってんだ?タオルとってくれ」

司らしからぬ、驚いた声をあげて聞いてきた

「う、うん・・・」

隠す様子もない、真っ裸な司に、目のやり場が困る
目をそらしながら、ハイと手渡すと、さっと身体を拭いて、
腰にタオルを巻くと髪をかきあげた

「抱きしめて・・・」

聞き逃しそうな小さな声で、つくしが思わず口にだす
司は、優しく微笑むと、無言で抱きしめていた

「ごめんね・・・」

「なにが・・・・」

「いろいろ」

「俺も、悪かった。きしめては、いらねぇな
 抱いての方が嬉しいけど・・・」

魅力的な声の主をつくしは、ドキドキしながら見上げる

「お帰りのキスがまだだぜぇ」

「えっ?」

高い鼻筋、薄い唇がズームして迫ってくると
つくしは、目を閉じて、受け入れていた
あまくて優しいキスは、物足りなさを感じる絶妙さで
司の薄い唇から離れていった
抱きしめて欲しいと甘えてきたかと思ったら
何事もなかったように、司の腕からスルリと抜けて
リビングに歩いてゆくつくしの後を追いかける

「あれから、デパートに寄ったんだ」

「何か欲しいものでもあったのか?」

「うん・・・これ。とても代わりにはならないけど」

リビングのテーブルに置かれた
モスグリーンの小さな紙袋を司に手渡すと
ラッピングされた包装紙を丁寧に剥がしていった
怒っているのか、表情を崩さない司に
こんな安物と一蹴されそうで、つくしは不安になる
出て来た腕時計をしばらく見た司が
一瞬、チラリとつくしに視線を向け
屈伸するように、少しばかり重心を落とすと
つくしの腰を両手で抑えて、軽々と肩まで担ぎ上げる

「ちょっと、なによ!怒ってんの?恐いってばぁ」

185センチの男の肩に担ぎ上げられたら、そこそこの高さがある
への字に曲がった上半身は、ガッチリホールドされていて身動きが取れない
自由が利く両足をバタつかせて、つくしは必死に抵抗した
司は、ベッドルームのドアレバーを下に下ろすと、
足で蹴り入って行く

「ねぇ・・怒ってる?」

そっと降ろされると
つくしは、ベッドにはり付けられて、身動きが取れない

「ありがと」

耳元で囁くこの男の声は、五感を痺れさせる媚薬だ
恋愛体質でないと自覚する、つくしの羞恥心を忘れさせてくれる
つくしは、ゆっくり目を閉じて、司に身体を預けた
司の優しい指使いと、唇の感覚が、敏感な場所をなぞってゆく
サイドテーブルの灯りが、ふたりをセピア色に変えて
互いの吐息が、身も心も蕩けさせた
司は、つくしを抱く時は、いつも無言だった
初めて彼を受け入れた時、苦痛に歪む顔を見て、
少しばかり困った顔して、大丈夫か?と聞いてきたくらいで
あまい囁きなどなかった
司が、言葉がくれるのは、愛しあった後、余韻に浸る時間だ

「すまない。お前を傷つけてたのに気がつかなかった」

「ごめん・・・大事な時計を台無しにしたね」

「あれか・・・いいんだよ・・別に
 無理して買ってくれたんだな。嬉しかった」

「ほんとに?」

「ああ・・大事にするよ・・・愛してる・・・」

司は、つくしの髪を撫でながら唇を重ねると
豊満とは程遠い、胸に顔を埋めて甘えてきた
つくしは、髪から順に、顔、肩、腕へと小さな手で
司の大きな身体に円を描くように、擦ってゆく
少しでも、手を止めよう物なら、潤んだ瞳で、
俺が眠るまで、続けて欲しいと要求してくる
普段、見せる強い彼とは別人で、つくしの心は
母性愛に似た気持ちなって、司を抱きしめ癒した
しばらくすると、寝息が聞こえてきた
つくしは、少年の様な司の寝顔を見るのが好きだった
癖のある髪を掻き上げ額に、おやすみのキスをして
つくしも眠りについた
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