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鍾愛 71

つくしを運転手の柴崎に託して司は、ビルの中へ入って行った。
直通エレベーターの中で、西田がその日の
スケジュールを伝えてきた
今日、一番大事な約束は、つくしの両親に会うことだった。

「牧野さんから、連絡ないよな?」

「はい。今のところキャンセルの連絡は
ございません」

ドタキャンもありえる。念を押すように
西田に確認したのは、つくしの両親が
司と会うことに難色を示していたからだった
どうにか話ができそうだ・・・
自分の知らないことをつくしの両親は知っている。叔父の事も、つくしの事も
ここ数年、仕事以外の事で考え事をするなどなかった司は、
決して良い話は聞けないだろうと思うと、頭の中に鉛が埋め込まれたような鈍痛を感じていた 

エグゼクティブルームのデスクの椅子に
腰をおろしパソコンの電源を入れ
つくしから連絡が来てもすぐわかるように
スマホをマウスの横に置いた
9時20分。柴崎から、病院に着いたとの連絡が入ってきた
「悪いが、診察の順番が来るまで
つくしを車で待たせておいて柴崎が待合室に
いてくれないか?あいつの体調が気になる
なるべく疲れさせたくないんだ」

「かしこまりました」

「あいつが何を言ってきても無視しろ」

「はい」

柴崎は、短く返事をして電話を切った
つくしの性格から、自分の事で人に迷惑をかけるのが嫌だとわかっていても
司は、自分が傍にいてやれない事が気になっていた

11時半。司のスマホがメールの着信を知らせていた。つくしからだ
パソコンのキーボードから指を離し
座っていた椅子を反転させて窓に向けた

「病院卒業!仕事復帰します!」

「安心した。仕事復帰は認めるが
あくまでも退職前提の引き継ぎの為だからな
俺との約束を忘れるなよ」

「わかってる」

短い文面から、つくしの不服そうな顔が
目に浮かんで苦笑いがこぼれた

「帰ってくるの遅くなりそ?」

「まだ、わかんねぇな。また連絡する」

「待ってる。仕事頑張ってね!」

ハートマークくらいつけろよ
相変わらず素っ気ないメールだな
くるりと椅子をデスクに戻して鼻を鳴らす

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「そろそろ、ご準備を・・・・」

「もう、そんな時間か」

つくしが選んでくれた腕時計に視線を落とすと1時15分を指していた
約束の時間は、午後2時
躊躇するつくしの両親に、無理を言って
自宅で話がしたいとお願いしていた
外で会うより、多くの情報が得られると思ったからだ

いよいよだな・・・
誰かと会う約束をして緊張などしたことが
なかった司は、重いため息をついていた
西田は社に残り、つくしを自宅まで送り届けた柴崎がパーキングで待機していた

「お気を付けて」

エレベーターフロアーまで見送りに来ていた
西田の言葉を背に扉が閉まった
ふわりとした感覚を伴いながら
エレベーターがハイスピードで降りて行く
あっという間に地下パーキングに到着して
柴崎が後部座席のドアを開けて待っていた
司は、大きな身体をかがめてシートに座った

「つくしは、どうだった?」

柴崎が運転席に座りシートベルトを
装置したのを見計らい司が聞いてきた

「帰りにスーパーに寄るように仰せ使いました。司様に、
美味しい食事を食べさせてあげたいと、
食材を吟味して、それは楽しそうに
お買い物してらっしゃいました」

この言葉から、柴崎も一緒に店内に入った事が伺えた。今は運転手をしているが
数年前まで、柴崎は、腕っぷしの強いSPだった。自身の体力の限界を感じて
退職を願い出たが、司に留まるよう
説得され運転手をしている。司に取って柴崎は、数少ない信頼のおける人物で、
何かと機転が利く男だ
つくしの事も安心して託せるなくてはならない存在だった

柴崎の話しに耳を傾けながら、司は、
つくしの事を考えていた。
両親を憎み復讐を誓っていたのに、そんな事はどうでもよくなっていた
贅沢な暮らしより、つくしと小さな幸せを
手に入れたい。それには、モンスターのような両親と道明寺財閥を
どうにかせねばならなかった。 
司は、スーツの内ポケットからスマホを取り出して、
ギャラリーボックスに入っているつくしの画像をしばらく眺めた後
マナーモードに切り替えた

つくしの実家は古い都営団地
司を乗せた車が、敷地内に入ると
サッカーボールを蹴って遊んでいる子供達が
目に入ってきた
子供の頃、望にバスケットボールを教えてもらった事を思い出し、
サッカーボールで遊ぶ
子供達の姿が自身の幼かった頃と重り合い
無意識に笑みがこぼれていた

「こちらでございます」
柴崎の声で現実に引き戻された司は
五階建ての古びた建物を車窓から見上げる

「ごくろうさん。何時になるかわかんねぇ
タクシーで帰るから社に戻ってくれ」

後部座のドアを開けた柴崎に声をかけて
車を降り建物の入り口に歩いて行った
一応、エレベーターがあんのか
扉の横にある割たボタンを押して待つ
ガガガガーーーアと派手な音をたてながら
エレベーターが降りてきた
途中で止まるのではないかと思わせる
エレベーターに乗り込むと4Fを押す
手櫛で髪を整え、ネクタイの結び目に手をやって気持ちを落ちつかせていた
チーンと言う音と共に扉が開いた
つくしの実家は401号室
エレベーターのすぐ横の部屋
ブザーのようなドアベルを押して緊張しながら反応が気になる

しばらくすると「はーーい」と声が聞こえてきた
所々塗装が剥がれ落ちて色褪せたドアが開いて
ボブカットで、人の良さそうな母親が顔を覗かせた

「突然、お伺いして申し訳ございません」

「いいえ。狭くて汚いとこですがどうぞ
お入り下さい」

つくしの母千恵子が、愛想良く応対してくれたお陰で、
司は少しばかり気が抜けた

「パパぁ。道明寺さんがお見えになったわよ」

6畳ほどの居間に通された司は
父親の晴男に深々と頭を下げた
七三に髪を分け小太りで眼鏡をかけている
晴男は、見るからに司を歓迎していない
素振りだった
この親父のせいで、つくしは苦労してきたと
言うのに、憮然としたいのは、こっちの方だ
苛立つ気持ちを抑えて司は出来る限りの
作り笑いを浮かべていた

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ここからは拍手お礼となります

HNさま

こんばんは!
更新さぼっている間に桜が散ってしまったかな?
こちらは、少し肌寒いです
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