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鍾愛 76


司が背を向けて寝たのは、たった一晩だけなのに
こうして腕の中に閉じ込めるられるのは、久しぶりの様な気がした

「行くぞ!」

つくしは、もう少し、このままでいたかったのに
俺様は気まぐれだ。次の事が頭の中にあるのか・・と
思ってしまうくらい切り替えが早い
ぼやぼやしていると置いていかれそうだ
司は、広げていたレジャーシートをたたみ
リュックに詰め込み歩きだす
緑豊かな公園は、スズメ、メジロ、シジュウカラ、ウグイスが
さえずり、木立で羽根を休めている
都会でも、色んな鳥がいるものだと、二人して空を見上げていた
次に来るときは、双眼鏡を持ってこようと話す
つくしの提案に、ふたりで来るのは最後になるかも知れない
司は気持ちの整理をつけるために
想い出が詰まった、この場所を選んだ

「この先に、クローバー畑があるんだ。行って見ようぜぇ!」

「へえーー。よく知ってるね
 そう言えば子供の頃、四葉のクローバーを探したけど
 見つけられなかった。見たことある?四葉のクローバーって」

「一回だけある。探してみっか?」

「凄い!強運の持ち主だぁ!」

後にも先にも、司が四葉のクローバーを見つけたのは
幼い頃、叔父と遊んだこの公園だけ。邸の庭でも見つける事が
出来なかった。叔父に会いたい一心で必死で探したのに
届いた知らせは、二度と会えないと言う現実だった

「ねぇ、後であれに乗ろうよ!」

つくしが指をさしたのは池のボート

「時間があればな。こう見えても、ボート漕ぐのは得意でよぉ」

司がオールで漕ぐ真似をする

「あたしが乗りたいのは、あっちの方!」

「はぁ?あのアヒルか?」

「アヒルじゃない、白鳥だってば!
 くちばしの先が黒くなってるでしょ
 良く見てよ!なんて書いてある?」

「スワンボート・・・ケッ!あれを作った奴のセンスを疑うよ」

「可愛いでしょ?」

「そうかぁ?」

たわいもないお喋りをしながら
池に停泊するボートを横目で見ながら通り過ぎた

「うわぁー!綺麗だね」

「だろ?ガキの頃、叔父さんと遊びに来てたんだ
 よし!四葉のクローバーを見つけようぜ!」

司は、自分自身と賭をした。四葉が見つかれば
会社の事も放り投げて、リスタートさせ自分の為だけに生きる
見つけられなければ時間がかかっても、
両親を退かせ、つくしを遠くから見守る
自分の傍に居ることで、つくしも、実母である琴美のように
危険な目に合うかも知れない
女々しいと思いながら、つくしのを諦める理由が欲しかった

「あたし、あっち探して来る」

クローバーを踏みつけないように
そっと歩くつくしの後ろ姿を司は、見つめていた

「あんまり遠くに行くなよ」

つくしが手を振って返事をする
春の陽射しは、ふたりをあたたかく包み込み
優しい風がつくしの黒髪を揺らしていた
司は、その場で腰を下ろすとクローバーではなく
シロツメクサの白い花を摘み出した
今朝、シャワーを浴びた後、スマホで検索していたのは
花冠の作り方だった
叔父が、クローバー畑で出会った女の子に編んでやった花冠
女の子の嬉しそうな笑顔が、いつまでも司の脳裏に焼きついていた
司は、離れた場所に居るつくしに、時折目をやりながら
花冠を編み、あっという間に完成させた

「さて、俺の幸せ探しをするか・・・」

花冠を置いた場所がわかるように
肩にかけていたリュックを置いて目印代わりにした
勘は良い方だ。必ず見つかる。司は根拠のない自信があった
しゃがみ込み、四葉のクローバーを探す
四つ葉のクローバーは、通常三枚のクローバーの葉が小さい時に
何らかの外的要因(踏みつけ等)でできた傷が原因で、
その箇所が分裂して別の葉が出てくることによって
四つ葉になると言われている
若葉の頃の外傷で出来る四葉は、成長する
春先の6月から7月頃に見つけやすい

「あったか?」

「見つけらんない・・そっちは、どう?」

「まだ、見つかんねぇ」
 
あの時、叔父は、なぜ四葉のクローバーを見つけたかんだろう?
今の自分と同じで答えが欲しかったのか?
立ち上がって、辺りを見わたせば気が遠くなるような
クローバーの数。これで見つけられたら
つくしとの出逢いは、偶然ではなく必然だったんだ
静かに腰を下ろし、またクローバーを探し始めた

ポツリと一滴のしずくが司の頬をかすめた気がした
ポツリ・・・ポツリとクローバーの小さな葉に
透明の滴が落ちてゆく。雨か?手を広げて空を見上げたら
そこだけ黒い雨雲がかかっている

「ついてねぇや・・・
 つくしぃ、戻って来い!雨が降ってきた」

大きな声で、つくしに声をかけた
つくしは、しばらくその場で空を見上げて立っていた

「早く来い!びしょ濡れになるぞ!」

リックを肩にかけると花冠を手に持ち
つくしが居る場所まで司が走って行った
雨足は、段々酷くなって行く
雨宿りするため、ふたりして逃げ込んだのは
売店の外で飲食できるパラソルの下

「濡れちゃったね・・」

つくしは、テーブルの上に置いてある
リュックからタオルを取り出して、
木製の椅子に座る司に手渡した

「今日は、雨降るって言ってなかったのに」

「通り雨だろう」

「あぁぁ、いつの間にか雨に変わってる。ほら・・・」

スマホの天気予報画面を見せるつくしの顔は
がっかりしているようだった

「こっち、向いて見なぁ・・・」

呼ばれて、つくしは、司の顔を見上げる
さっき編んだ花冠をつくしの頭に乗せてやった
長い黒髪のつくしに白い花冠は、よく似合っていた

「可愛い!これどうしたの?」

「俺が作った」

「うそ!良く作り方知ってたね・・・
 ありがとう!凄く嬉しい・・・・どう?似合う」
 
ポーズを取って、子供見たいにはしゃぐ
つくしを司は、愛おしく感じた

「左手出して」

つくしに言われるまま無言で左手を差し出した

「ちょっと潰れちゃった・・・」

パーカーのポケットからシロツメクサで作った指輪を
取り出して、形を整えると司の長い薬指に通した

「浮気防止のおまじない」

「これがか?聞き捨てならねぇよな・・
 なんだよ浮気防止ってのは?」

「だってさ・・・・」

「だって何だよ?」

「怒った?」

「ちょっとな」

司は、わざと不機嫌な顔をしてみせた

「ごめん・・・・」

「引っかかったかぁ!
 そんな事くらいで怒ると思うか?このオレ様が!
 それより、写真撮らねぇ?」

写真嫌いな司が珍しく誘ってきた
花冠をかぶったつくしと、
左手の薬指にシロツメクサの指輪をはめた司

「よし!撮るぞぉ!笑え!」

頬を寄せ合い、司は指輪がよく見えるようにポーズを作り
スマホを右手に持って何度もシャッターを押す

「やべえなぁ。本降りになって来やがった」

「ほんとだね」

パラソルに叩きつけられる雨の音が
段々、大きくなってきている
つくしが、人の気配を感じて、視線を動かすと
売店の中から出てきたおばさんが、
1本500円と書いてあるビニール傘が入った
傘立てを置いていた
100円ショップでも売ってるのに500円って・・
ここに居てずぶ濡れになるより良いかと思い席を立とうとして
中腰になると、司の大きな手で手首を掴まれた

「俺だ。悪いが○○公園まで迎えに来てくれないか
 ああそうだ。その公園だ。売店の前に居る」

司は、スマホを取り出していた

「柴崎さん?」

「ああ」

「わざわざ呼び出したら悪いじゃない」

運転手の柴崎を急に呼び出すのは
自分勝手な振る舞いのように思えた、つくしは顔を曇らせた

「いいんだよ。それもあいつの仕事だ
 そんな顔するな。柴崎も、嫌々来る訳じゃねぇから」

どしゃ降りで雨のカーテンが出来ている公園に
柴崎が歩いてくるのが見えた

「お待たせ致しました」

「悪かったなぁ」

柴崎がにっこり笑い傘を2本手渡してきた

「足元が悪いのでお気をつけ下さい」

「すみません」

申し訳なさそうな顔をするつくしを見て

「花冠、可愛らしいですね。似合ってらっしゃいます」と
 柴崎が返してきた
 つくしは、少し照れながら下を向いた

車に乗り込むと、柴崎がフェイスタオルを手渡してきた
何から何まで抜かりのない人だ・・・と、
つくしは感心してしまった
司は、行きつけのセレクトショップに行って欲しいと
柴崎に告げ
そこで濡れた服を脱ぎ、新しい洋服を司が選んでくれた
少しお洒落して、向かった先は、歌舞伎座だった
ぎりぎり午後の部に間に合った
年間シートを抑えてある為、いつでも観劇出来るようになっている
午前の部を観ていないと演目がわかりにくいが
そんな事は、どうでも良かった
司は、自分を通して、つくしの実父である望と言う人物を
感じ取って欲しかった
いつか、この日のことを・・司の思いを・・
伝えられる日が来るのか?つくしを連れて来たかったのは
司とつくしにとってかけがえのない人、
望との想い出の場所だった
四葉のクローバーは、見つけられず、
突然降りだした雨と言い強運だと思い込んでいた
自分の運も尽きたのか?司の心の中に恨めしい気持ちだけが
残される事になってしまった
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