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鍾愛 84

「ほんとに偶然だったのか」

帰路へ向かう車の中で司は落ち着いた口調で柴崎に聞いてきた

「はい。社内から少し離れたパーキングまで
 つくし様と歩いて行きましたが、これと言って
 怪しい人影もありませんでした
 車に乗って、道路へ出て、後続車に手を挙げて
 入れてもらったのですが、その車が、
 みずきに様の車だったようです」

「みずき様と呼ばなくていい
 あの女は、俺とは何の関係もないんだから」

司が不機嫌に答えた

「つくしは、どうしてた。怯えてたか?」

「いいえ。興奮はしていらっしゃいましたが
 それは、私を心配なさったからで相手が椎名さんだとは
 気がついておられませんでした
 司様。お住まいについて西田さんから
 何か聞いていらっしゃいますか?」

「ああ。あそこはよくないってんだろ?」

「はい」

「一戸建ての方が侵入ルートが多いじゃねぇか」

「今の部屋に、ボディガードを住まわせるよう手配致しますか?」

「それはいい。つくしが余計、不安になる」

司は、ため息をついた後、言葉を続けた

「本音を言えば、俺が嫌なんだ
 ふたりで一緒にいるのが楽しいから誰にも邪魔されたくない
 なぁ、柴崎。お前はどう思う?親父とババァが、
 つくしを消すと思うか」

「そう簡単には・・・
 つくし様が邪魔な存在と言うのなら別の意味では
 あるかも知れません」

柴崎は、迂闊な言葉を吐いてしまったと
ルームミラーで、司の表情を確認するように視線をやった

「あいつよぉ、こないだ晩飯に、ハンバーグ作ってくれたんだ
 キッチンから、トントン包丁の音が聞こえて、
 カタカタ色んな音がしてた。そのうちいいにおいがしてきて
 俺の手のひらくらいの大きさのハンバーグが出てきた
 こんなに食えねぇからって言ったら、俺の身体に合わせて
 作ったんだから残さず食べろって言うんだ
 邸に居るときは、人の気配がなくて当たり前だったから
 狭い部屋だと、何でもわかるんだよな」

司が何が言いたいのか柴崎は、わかるような気がした
今まで、煩わしさと興味のなかった事が
心地良く感じるようになったと言いたかったのだろう
つくしを送って行き、部屋に入るとダイニングテーブルの上に
一輪挿しが飾ってあって、可愛らしい小さなかごには
クッキーが入っていた
どれも、司のテリトリーには無かったモノだ

部屋でつくしが淹れてくれたアイスコーヒーを飲みながら
少しばかり話をした。
作れる料理と言えば、簡単な貧乏食しかないけれど
彼は、美味しいって残さず食べてくれると
頬をポッと赤らめて恥ずかしそうに惚気た
司のまわりに居た女達は、ハイスペックな彼を自慢して
自分に、高価なブランド品をプレゼンしてくれる
特別な存在だと自惚れしてたに違いない
みずきも例に漏れず、このタイプだ

「明日は、つくしを連れて飲みに行くあいつらも一緒に」

「みなさま、お揃いなのですね」

「ああ・・・」

「お疲れさまでした」

自宅に到着し、後部座席のドアを開けるため
運転席を降りようとした柴崎に、司がいいよと声をかけた

「お前の指紋も登録しとかねぇとな
 何かあっても中に入れないと困る。類に言っとくよ。
 その傷、痛むようなら社内の医務室で診てもらえ。ご苦労さん」
 
「お疲れさまでした。つくし様に宜しくお伝え下さい」

「ああ」

柴崎は、しばらくその場でとどまり司がEVの中へ
消えて行くのを確認してから車を発進させた

===========

ピーーンポーーン

「帰ってきた!」

「お帰りなさい!」

「ただいま・・・大丈夫か?怖かっただろ?」

ドアを開けるなり心配顔で
帰り道でのトラブルを聞いてきた

「すんごい剣幕で、女の人が怒ってた
 あたしのせいで、柴崎さん、怪我しちゃった
 一緒に病院に行きましょうって何度も言ったんだよ
 でも、大丈夫だからって・・・・」

「お前のせいじゃない。あれくらい怪我のうちに
 入んねぇから。柴崎は、相当、修羅場くぐって来てんだ
 それに、あいつの唇が腫れたところで、キスする相手も
 いねぇんだから・・・心配すんな」

「そんな言い方ってないでしょ」

ムスッとした顔をして、つくしは言い返した
柴崎の事を本気で心配しているのに
司が茶化したような返事をしたからだった

「あぁぁぁ、腹減った!晩メシなに?」

つくしの機嫌を取るように司が聞いてきた

「ごめん・・・買い物に行けなかったから冷凍うどん」
 
「嫌がらせうどんか!この時間だ。胃もたれしなくて丁度いい
 15分でシャワー浴びっから作っといてくれ」

「洗う面積広いんだから15分じゃ無理だよ
 すぐ出来るから、シャワーからあがってからにする」

「いや、15分だ!賭けるか?」

「良いわよ!洗ったふりのズルしないでよね」

「そんなセコい真似すっか!このオレ様が!」

バスルームまで歩きながら、スーツの上着を脱ぎ
ネクタイをほどき、ワイシャツのボタンを外した
つくしは、司の脱ぎ捨てた衣類を拾い上げながら
後をついて行く

「よぉーし!今からだかんなぁ!」

司は、下着を脱ぎ捨てるとバスルームへ飛び込んでいった

「まったく、もぉぉぉ!世話が焼けるんだから!」

つくしは、独り言を言いながらベッドルームへ行き
スーツをハンガーにかけると、着替えを手にして
バスールームの前に置いた
予告通り15分で出てきたら、鰹だしの香りが鼻をついた
知り合ったばかりの頃、見舞いだと司の元へ
コンビニで売られている冷凍うどんを届けた事があった
凍ってるうどんなど知らなかった司は
嫌がらせだと憤慨していたのに、食べてみれば美味しくて
お気に入りとなり、司のリクエストで
常に冷凍庫にストックされている

「いただきまーす!」

質素な夕食だが、ふたりで囲む食卓に司は満足していた
遅い夕食を済ませ、ベッドに潜り込んだのは
日付が変わるぎりぎりの時間
いつものように、つくしは、司の腕の中に居た

「15分だっただろ?さて、賭は俺の勝ち。何して貰おうかな?」
 
「賭けた覚えないもん!」

「お前、負けず嫌いだなぁ。素直に負けを認めろ!」

「あのさ・・あたし・・
 明日で、仕事辞めようかと思ってるんだけど良い?」

何を言い出すのかと思えば急にちがう話を持ち出してきた

「いいも、へったくれもねぇよ。俺は大歓迎だ!
 何で、急にそんなこと言うんだ?柴崎の怪我が原因か?」

「ううん・・違う。
 思ったよりサクサク引き継ぎ進んじゃってさ
 あたしが居なくても大丈夫そうだから」

職場のあの雰囲気で1週間は居づらい
どうせ辞めるのなら数日早まったところでと、司に相談してみた

「で、ねぇ・・・ひとつ我が儘言ってもいい?」

「いいよ。珍しいな。お前がそんなこと言うなんて
 なんだ?その我が儘って?」

「お料理教室に通わせて欲しいんだ
 あたし、たいしたもん作れないし、
 司に美味しい物食べてもらいたいから
 本格的に、基礎から学びたいの。で・・
 結構、お金かかるからどうかと思って」

「条件が3つある。そのうちの1つだけクリアー出来ればOKだ」

「ほんとにぃ!」

「1、送り迎えは柴崎がする
  2、専属のタクシーで行く
  3、俺が休みの時に個人レッスンしてもらう。
  1か2か3か?どれにするか選べよ」 

「どうして?どうして一人で行っちゃダメなの?
 子供じゃないんだよ?」

「今日みたいな事があるだろ。心配なんだよ」

「あれは、たまたまだよ。どうしてそこまで心配するの?」

「当たり前だろ?お前に惚れてんだからよぉ
 ほんとは、一緒に料理教室行きてぇくらいだもん
 なぁ・・・お前の我が儘聞いてやるんだから
 俺の我が儘も聞いてもいいんじゃねぇーの?」

「・・・・・・・・・」

「司っていいにおいするね」

今日は、ショックな事が二つもあった
司は、いつも優しい。照れ隠しもあって
つくしは、司の胸に顔を埋めた

「お前もなぁ。俺の男性ホルモンがざわめいてる。突き進めと!」
 
「あ、あ、あたしは、ざわめいてない!」

「そりゃ残念だな。お楽しみは取っとくよ
 賭に勝った分も上乗せして!」

しかめ面したつくしの鼻先を指で摘まんで
司は、意地悪そうな笑みを浮かべていた
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  • Ranmaru*
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Re: No title

チムチム様

おはようございます!
ごめん。コメント返事おくれちゃいましたm(_ _)m
オリジナル更新待ってるよ!

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