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鍾愛 85

「おはよ!」

ねぼけ眼で起きてきた司にキッチンから、
少しだけ顔を覗かせ、つくしが声をかけてきた
昨日は、元気がないように思えたが
今朝は、いつものつくしに戻っていた

「はよー」

司といえば
パジャマ代わりのティーシャツに右手を突っ込んで
ボリボリと胸の辺りを掻きながら、髪は変な寝癖までついている
スカシタ彼しか知らない女が見たら、
100年の恋も醒めそうな間抜け顔だ

「コーヒーだけでいい」

「昨日の晩ごはん、少しだったのにお腹空いてないの?」

「あんな時間に食ったんだ。まだ胃袋で
 うどんが踊ってるよ」

「そうなんだ。あたしは、すでにお腹空いてるのに」

「痩せの大食いだな。それとも胃下垂か?
 お前、体調どうなんだ?めまいとかしねぇの?」

「うん!今のところ絶好調!」

「そりゃぁー良かった」

素っ気なく聞こえるが、以前の司なら
そんな言葉すら口にする事はなかった
コーヒーが運ばれて来るまで
ソファーに寝転がって毎朝の日課
ネットニュースをチェックする
気になるトピックはなく、彼のお気に入りの豆
ブルーマウンテンの芳醇な香りが漂うと
ソファーから身体を起こして癖のある前髪をかきあげた

「今夜、メープルで、飲み会があっから。お前も強制参加だ
 メンバーは、こないだフレンチレストランに集まった奴ら」

目の前のソファーに座るつくしの顔が一瞬曇り目を伏せた

「桜子は来ねぇよ。滋だけだ」

「あたしも行かないとダメ?」

「嫌か?」

「嫌って訳じゃないけど・・・」

と、口ごもり、乗り気でないのは見てとれた
椎名製薬社長との会食に同席しろと
楓からお達しがあり
クライアントと先約があると司は断りを入れた
飲み会の場所に、敢えて同じメープルを選んだのは
楓の思い通りにはならないと言う意思表示でもあった

「柴崎に連れてきてもらえ」

「どんな洋服着て行けば良いの?
 一流ホテルだし、あたしだけ見窄らしい格好じゃ・・・」

それなりの装いで行かなければ司が恥をかいてしまう
泥まみれの普段着でフレンチレストランに行った事は
忘れもしない。皆、何も言われなかったけれど
司の面目丸つぶれだと申し訳なく思っていた
今度は、彼に恥をかかせないように、きちんとした服装で
彼の親友達に会いたいとお伺いを立ててきた

「スーツでいいよ。みんな仕事終わりだ
 洒落た格好でこねぇから。時間があるならどっかで
 洋服買ってから来るか?」

「いい、いい。わざわざ、そんな」

「なら、そのまんまで来い。気を使う奴らじゃねぇからよ」

「うん」

つくしは、ソファーから立ち上がると、
そのままキッチンに歩いて行き
お腹が空いてると言っていたのに
買い置きしていたオレンジジュースを
冷蔵庫から取り出して、グラスに移すと一気に飲み干し
顔を洗いに行った。手早く済ませると
ベッドルームにある備え付けのクローゼットの扉を開け
ハンガーを滑らせながら洋服を選んでいた

「これで良いかなぁ?」

司に買って貰った、センスの良いスーツを手に
リビングに戻って来た

「いいんじゃねぇ?」

「じゃぁ、これにする!」

メープルの会食は、当然、みずきも同席するはずだ
元婚約者の滋の存在は、みずきにとって脅威でもある
財力で言えば、大河原家の方が数段上
それなりの発言力もあり、気が強いお嬢様
つくしも、滋も勝ち気だが、筋の通った気の強さで
みずきにのようにヒステリックな我が儘をまき散らし
勝ち誇るような事はしない
今カノ、元婚約者、婚約者予備軍と三者が顔を合わせれば
ちょっとした修羅場が待ち受けているのは承知の上
楓とみずきの父親、椎名敬一を牽制する為
つくしと滋を巻き込む形になってしまうが
遅かれ早かれ馬鹿げたやり取りをせねばならなかった

「ほんとに、コーヒーだけでいいの?
 冷凍のおにぎりもあるよ」

「大丈夫だ。もうすぐ柴崎が迎えに来んぞ!早く支度しろ!」
 
「いっけない!」

つくしは、大きな瞳をコロコロさせて
ベッドルームに消えて行った
今日は最後の出勤。少ないメイク道具からお気に入りの
アイシャドーとリップを取り出して色づけし、
お洒落なスーツに似合うよう、
珍しくしっかり顔を作り込んでいた

「スーツはハンガーにかけてあるから!」

ドタバタと司の目の前を通り過ぎ去り際に
つくしが声をかけてきた
司のスーツは、毎朝つくしがコーディネートしている
今朝は、濃紺のスーツ、ストライプのワイシャツ
司の好きなボルドーベースのドッド柄のネクタイだった

「今日は、奇麗だな」

玄関まで見送りに来た司が呟いた

「いつも、奇麗です!」

照れ隠しに、わざとぷりぷりした表情を作って返した
つくしは望の娘。道明寺家の血を引いている
大きな瞳に鼻筋が通っていて、素顔でも奇麗だった
透き通るようなきめ細かい肌は清楚さを増し
メイクをすれば、華やかな淑女になった
司は、満更でもない笑顔を浮かべ、気をつけて行ってこい
と、つくしを送り出した

===============

「おはようございます」

「おはようございます。傷はどうですか?」

「ご心配頂き、ありがとうございます
 年の割には、再生力があるようで
 まだまだ老いぼれてはいないようです」

話をしながら後部座席のドアを開けてくれた

「老いぼれだなんて、柴崎さん、いくつですか!」

自虐的な言葉を吐く柴崎に、つくしはホッとして
後部座席に乗り込んだ

「実は、あたし、今日で退職することになりました
 送り迎えして頂き、ありがとうございました」

「これからは、司様の奥様になられるのですね
 今まで通り、宜しくお願い致します」

「こちらこそ、宜しくお願いします。えっ?」

奥様と言われ、まだそこまでは・・と思いつつ
肯定も否定もしなかった
車内は和やかな雰囲気に包まれ、つくしを乗せた車は
無事、時間通りに勤務先に到着した
柴崎は、昨日と同じ様に変装をして、つくしの護衛にあたる
総務課では、臨時朝礼が行われ、本日付で
つくしが退職する事を告げた
引き継ぎと、私物の片付けに終われ、社長が出社すると
部屋まで来るように言われ
最後の最後で何か失敗したのか?戦々恐々で
社長室のドアをノックした

「牧野です。おはようございます」

「牧野さん、お疲れさまでした
 我が社のために尽力を尽くしてくれて、ありがとう
 君のお陰で、我が社も安泰だよ!ワァハァハァハァ」
 
「は・・・はい・・・短い間でしたがお世話になりました」

革張りのソファーに座る社長の斜め前に立ち
ありきたりの返事をする

総務課では、追い出されるような
余所余所しい空気があったのに
社長は、上機嫌で、豪快に笑って握手まで求めてきた
つくしは、訳がわからず面食らって愛想笑いをし
社長の機嫌がいい理由は、
つくしが世話になったから、継続的に取引をすると
司から連絡を受けていたからだった

「何だったんだろ?」社長室を出て
首を捻り考えて見たけれど思い当たる節がない
社長直々に感謝の気持ちを伝えられたことで
モヤモヤした気持ちが少しだけ晴れたような気がした
総務課へ戻り、最後の仕事を片付け終わる頃
時計は、午後7時をまわっていた

「牧野さん、お疲れさまでした!」

総務課の仲間から大きな花束を手渡され
拍手がわき起こっていた

「お世話になりました」

礼を伝えると、日を改めて送別会をやるから来いよと
上司が言葉をかけてくれた。感極まりながら
同僚達の拍手の中、会釈しながら、つくしは部屋を出た
父親の借金返済の為、懸命に働いてきた
ここへ来るのも今日が最後
つくしは外へ出ると、振り返り深々と頭を下げた

「お疲れさまでした」

少し離れた場所で待っていた柴崎にねぎらいの言葉を
かけられた途端、気合いを入れたメイクが台無しになる程
ワァーワァー泣いてしまい
柴崎は、街行く人に凝視されながらも、
無言で、つくしを見守っていた

=========

メープルのロビーには、約束の時間より早く滋の姿があった
滋は、パーティーで、数回みずきと顔を合わせた事がある
オートクチュールのドレスを身に纏った滋に
プレタポルテのドレスを着たみずきは
ひとり勝手に敗北感にさいなまれ、
メラメラと闘争心に火をつけていた
何度目かのパーティーで、張り合ってると気がついた滋は 
鼻であしらうような余裕を見せ
それが余計、かんに障ったみずきは滋に負けじと
オートクチュールのドレスでパーティーに
参加するようになっていた

司を初めて見たのは、パーティー会場だった
一目見た時から夢中になり
芸能界に入ったのも彼に近づくため
滋の存在が気にかかり、親しげなふたりに嫉妬心を感じていた
それなのに、今、司が夢中なのは、自分でも、滋でもなく
目立たない、平凡な女つくしだ
滋相手では勝ち目がなくとも、つくしなら余裕で奪えると
高をくくっていた

「あら、椎名さん、こんな所でお会いするなんて!」

わざとらしく滋が挨拶をする

「大河原さん、お久しぶりです。司さんと待ち合わせなんです」

「へーっ。司と?変ねぇ・・司は、私と約束してるんだけど?」
 
「何かの勘違いじゃないですか?」

「勘違いは、貴女のほうでしょう?」

「勘違いなんかじゃありません!
 今日ここで、うちの父と司さんのお母様と
 婚約発表の打ち合わせをするんです」

父親に、まだ誰にも言うなと釘を刺されていたのに
滋の挑発に頭に来たみずきが、早口で勝ち誇った様に言った

「ふーーーん。婚約ねぇ」

滋は、小馬鹿にしたような冷ややかな視線をみずきに投げかけた

「早速、やってんぜぇ!」

総二郎と連れだってやって来たあきらが
火花を散らす滋とみずきを見つけると
困った顔をしながら総二郎に流し目を送る

「高みの見物と行くか!」

総二郎が呑気に返した

「おいおい、何を言ってんだ、
 あの調子じゃぁ取っ組み合いの喧嘩になんぞ」

「いいんじゃねぇ?女の喧嘩って、そそられるからよぉ
 それに、滋が負けると思うか?あんな小者に!」

「お前、真面目に言ってんのか?
 ここへ、司が彼女連れて来てみろ!収拾つかなくなるんだぞ」

「道明寺財閥の坊ちゃんと大河原財閥のお嬢さんの連合軍と
 椎名製薬のお嬢ちゃんとの一騎打ちなんて、
 闘わずとも軍配はあがってる様なもんじゃんか」

「はぁ?お前って・・・・」

あきらは、かぶりを振りながら黙ってしまった

「よお!」

聞き覚えのある低い声が総二郎とあきらの背中に
響くように届いて振り返ると司がズボンのポケットに
手を入れて近づいてきた
あれを見ろ!あきらが無言であごをしゃくる
司が動かした視線の先に、滋とみずきがいた

===========

ここからは拍手コメントお礼となります

HNさま

おはようございます。
開設当時から、拍手コメント頂き、感謝の気持ちでいっぱいです
ありがとうございますm(_ _)m

血迷って二次を書き出して1年ちょっと
駄文お付き合い頂ける皆さんが居たからこそ
続けてこれました。感謝!感謝です
書きたい事は、尽きること無くあるのですが
そろそろ去り際だとも思ってます
書きっぱなしの話もあり完結させなければ終われないとも
思ってます
サイトは、多分、削除するかもですが・・・
今しばらくお付き合い頂ければ幸いです
交流は、HNさんが、二次書いて下されば出来ますよ!
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  • Ranmaru*
  • URL
Re: No title

 L**A様

こんにちは!
お返事が遅くなり申し訳ございません
可愛らしい画像に癒されました!
ありがとうございます
頂いた画像、使わせて頂いても宜しいですか?
お友達に聞いてから画像添付再チャレンジ致します

駄文を垂れ流して恥ずかしい限り
完結してないお話も多いので、きちんと終わらせてから
卒業させて頂こうと思っております
引き続き、お付き合い頂けたら幸いです
いつも、素敵なコメント頂き、ありがとうございます!

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