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鍾愛 90

「ねぇねぇ花沢類見て!喫茶店がある」

散歩中、住宅街の一画で
小さな喫茶店を見つけた。今流行のお洒落なカフェと違い
自宅の1階を店舗にしたレトロ感たっぷりの店構えで
青色のテント庇に喫茶さざなみとかかれてあった
入口横に紫色の紫陽花が咲き、ショーケースに
メニューのサンプル品が陳列されている

「面白そうな店だね。入ってみる?」

「うん」

スモークがかった分厚い硝子の扉を押し開けて
店内に入ると香ばしい珈琲の香りが漂ってきた
年齢で言えば60代後半くらいだろうか
ショートヘアで、モノトーンのブラウスに、
自然な銀髪が映える女性が店を切り盛りしていた

「いらっしゃいませ」

カウンターから心地良い声が聴こえてきた
店内には、シニアの夫婦、スーツを着た若い男性がいた
肘掛けのない、どっしりとした椅子があるテーブル席に座り
大きな窓からは街並みが見える

「今日は、お天気も良くて暑くなりそうですよ」

優しい笑顔を浮かべたママが、水の入ったグラスを
テーブルに置いた
つくしは思わず涙ぐみ下を向くと
メニューを見る振りをして誤魔化した
気にしない振りをしていたが、司の婚約のニュースを知り
どうしていいのかわからなくなっていた
ママの微笑みが、母千恵子と重なって涙がでたのだ

「モーニング二つ。俺は、モカ
 つくしちゃんは、なに飲む?」

「あたしは・・・ミルクティーでお願いします」

「カップは、どれになさいますか?」

カウンターの壁に設けられた棚を見ると
可愛らしいカップが並んでいる

「俺は、一番端の白のカップで」

「あたしは、右から三番目のを」

しばらく悩んで、つくしは、花柄のティーカップを選んだ

「はい。かしこまりました」

カップを取り出しカウンターに置き、ローストされた豆を挽く
この店の珈琲はサイフォンで抽出している
味、のどごし、香が日本人好みの柔らかな味わいを
楽しませてくれるのはサイフォンならではだ
挽いた豆をロートに入れ、フラスコに水を入た後
アルコールに火をつけた。熱せられた水がお湯となって
ロートに上昇する。タイミングを見計らい
ロートに入った珈琲を竹へらで手慣れた手つきで撹拌する
初めてみたサイフォン珈琲に、つくしは見入っていた
珈琲好きの司に淹れていたのは、手軽なコーヒーメーカーだ
彼の好みではなかっただろうに文句も言わずに
毎朝飲んでくれていた

つくしがサイフォン珈琲に夢中になってる間、
類は、司にメールを送った。今から喫茶店で朝ごはん
俺の女に、ベタベタいちゃいちゃするんじゃねぇーぞ!
またもや即行で返ってきた
そっちはどう?
どうもこうもねぇよ!総二郎とあきら、
それに滋まで電話してきやがって、昼メシ食うことになった
つくしの事、頼んだぞ
任せておいて。みんな心配してるんだよ
短いやり取りだが、司の焦りが伝わってきた

「あの、そのサイフォン、こちらのお店で買えるんでしょうか?」

「これ?ごめんなさいうちでは売ってないの」

「サイフォンが欲しいなら、足を伸ばして買いに行く?」

「簡単に手に入るの?」

「豆を売ってる専門店でも、デパートでも買えるよ
 見てたら、俺も欲しくなっちゃった」

「あら、それじゃうちは商売あがったりになりますね」

邪魔にならない程度に、ママが、言葉を滑らせてきた
こんがり焼いたトーストにスクランブルエッグ、サラダが
テーブルに並んだ

「ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます」

つくしは礼を言いい、ミルクを入れてスプーンでかき混ぜた

「花沢類・・・あたしはどうしたらいいの」

「司の婚約のこと?」

「出て行った方がいいのかな?」

「どうして?司が別れようって言った訳でもないのに」

「でも、遅かれ早かれ、いずれこうなってたと思う
 うちなんて狭い都営住宅で、パパは無職
 司の家と釣り合うわけないもん。反対するよね
 ご両親は・・・・」

「俺は反対されても好きな女と結婚するよ
 司もそうだと思う。帰ってきたら、
 きちんと話をするはずだから」

「・・・・・・」

類の慰めの言葉に、コクリと頷いて
温かいティーカップを唇に乗せた

============

「司!どーなってんの!
 あんた、あの女と婚約したんだって!
 つくしちゃんはどうしたの!つくしちゃんは!
 もしかして、あんた、二股かけてたの?」

凄い剣幕で電話してきたのは
いまだ邸に滞在している椿からだった

「なんだ、ねぇーちゃん、まだ居たのか
 早く帰れよ。離婚されんぞぉ」

「ダンナは新しいホテルのオープン準備で
 半年は帰って来ないから!そんなことより、
 お母様が、軽井沢と伊豆の別荘手放した事、知ってる?
 あれだけ大事にしてたのに
 うちって、もしかしてお金に困ってんの?」

「みてぇだなぁ。邸もそのうち人手に渡るんじゃねぇ?
 そもそも、あんなバカでかい家いらねぇーんだよ」

冗談のつもりで聞いたのに、司が、そうだろうなと
返した事に、椿は驚いていた

「なに言ってんの。ここは代々、道明寺家が・・・」

「それがくだらねぇつってんだ!」

「あんた、ずいぶん変わったわね
 で、つくしちゃんは?別れたの?」

「別れてねぇーよ」

「お金なら、うちのダンナにも相談するから」

「ねぇーちゃん、悪いことは言わねぇ、
 巻き込まれる前に帰れ。色々、ややこしそうだからよぉ
 諭吉はどうしてる?つくしが気にしてた」

「元気よ。あんた、変な事、考えてないでしょうね」

「頭ん中、すでに変になっちまってるよ」

「融資の事なら、黙ってないで相談してよ
 何とかなるかも知れないから」

「ありがとう」

椿との電話を終えた後も、
婚約のニュースを知った各方面から、次々と
お祝いの電話とメッセージ、花束が届けられ
西田は対応に追われていた
そんな中、司の仕事用のスマホに
見知らぬ電話番号からしつこく着信がはいってる
何度目かのコールででてみれば、
今、一番聴きたくない、みずきの声がした

「司さん?今夜のエコノミー賞
 エスコートして下さいますよね?」

「バカか、お前!」

冷たいひと言を言い放つと一方的に切った
不安になっているつくしに連絡したかったが
直接話す方が賢明だろうと電話せずにいた
道明寺HDの前は、司からひと言もらおうとマスコミが
待ち構えていた

「外にも出れねぇのかよ」

マスコミが張ってる、こっちに来てくれ
総二郎達に連絡を入れ来てもらえるように頼んだ

「よう!賑わってるねぇ!」

「うるせぇぇ!」

一番先に到着したのはあきらだ

「司くん、婚約おめでとう!」

「テメェ-!ナメてんのか!」

花束を手に現れたのは総二郎

「ちょっと、司!どうなってるの?
 説明してもらおーじゃない!」

鼻息荒く登場したのは滋だった

「好きなもん食え!社食だけどな」

エグゼクティブルームに一同が集まった

「俺、ビフカツ定食!!」

「じゃー俺も!」

総二郎とあきらがオーダーする

「それじゃー私は、酢豚定食!」

「お前ら、楽しそうだな」

「あれ?類は?来ねぇの」

あきらが訊いてきた

「類は、つくしのおもりしてんだよ!」

「それにしてもアレだよな
 ずいぶん、香ばしい女だよな
 彼の全てに惹かれておりますぅ」

総二郎が、みずきの声色を真似てからかえば

「俺は、腹抱えて笑ったよ
 滋の戦闘力にビビって、婚約に持ち込まれたんだろ?」

ニャニャしながら、あきらが訊いてきた

「やな女!ああいうの一番嫌い!
 つくし、どうしてるの?」

「混乱すると思って、連絡してない」

「どうする気だ?」

冗談を言っていたあきらが真顔になり

「わかんねぇ。俺に責任もあるが、かなり業績悪化してんだよ」

「椎名と手を結んで誰得な展開だろ?」

「黒幕が他にいるんだよ。西田も探りを入れてるが
 尻尾ださねぇからな」

あきらの問いに、ため息をつきながら答えた

「天下の道明寺財閥に喧嘩ふっかけてんのか」

「負け戦だよ、こっちがな」

えっ?と言う顔をして総二郎が視線を向けた

「原因は、メープル?おば様は、どうして手放さないんだろ?」

「そうだ。我が子より可愛いホテルだからだよ」

滋は、わからないと呟いた
彼女も、父親の後を継ぎビジネス界に身を置いている
楓の考えが理解できないと言った

「資金が焦げ付いてる」

「いくらだ?」 

「ハッキリした数字は出てないが
 数千億はくだらねぇだろうな」

「どうしてそこまでなるまでほっといた?」

あきらが深いため息をついた

「興味なかったかんなぁ。道明寺の事なんて」

「すまない、俺らではどうしょうも出来ねぇ」

親友の窮地に何もしてやれない事を総二郎が詫びた

「そんなつもりは端っからねぇよ
 ゲームの招待状を受けたのは俺だ
 勝てば、つくしの元へ帰れる
 負ければ、みずきと結婚だ・・・・
 ここまで追い詰められたんだ、
 つくしとは一時的に別れる事になる
 俺の個人的な事業は、つくしに引き継いでもらう
 あいつの事、サポートしてやってくれ。頼む」

「で、勝算はあるのか?」

「今んとこ無理だな・・だから・・最悪の事を考えて
 つくしを助けてやって欲しい」

「司・・・それでいいの?」

「しゃーねぇーだろ」

あきらと滋の問いかけに、司は、諦めに似た気持ちを
吐き出していた
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