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鍾愛 92

二人して果てたあと司は躰を離した
あられもない姿で恍惚感に浸り
虚ろな目で見つめる先は、殺風景な天井
珈琲の香りと、男女の生々しい情愛の
残り香が入り交じったキッチンから
見える品のいい部屋とは別世界のように思えた

仰向けになったつくしは、涙のあとを残して
目を閉じている
力なく放り出されたつくしの手を掴み、
ぎゅっと握りしめると答えるように握り返してきた
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朝6時。つくしの目覚まし時計のアラームが
鳴り響く。寝ている場所は硬い床ではく
ベッド上だった。横には、司が眠っている

「起きたか」

寝ていると思ってた司が声をかけてきた

「もう少し寝てても大丈夫だよ」

真っ裸でベッドを抜け出した司は
クローゼットから鍵のかかったアタッシュケースを取り出して蓋を開けた。

「お前の親父だ」

指に挟んで見せた古ぼけた写真
司そっくりな若い男が小さな男の子を膝の上に乗っけて微笑んでいた

「お父さん?」

「ああ」

「この小さい子は、司?」

「そうだ。親父より叔父さんに似てるって言われてたからな。
この癖毛は親父譲りだけど叔父さんも、ここまでじゃねぇけど
癖毛だったよ。お前も髪質は似てる」

長い間、つくしは写真に見入っていた

「シャワー浴びてくる」

と、言い残し司は着替えを持って
ベッドルームをでた
キッチンに散らかる衣服をソファーに置き
ビジネスバッグから仕事用の携帯を取り出し
落としていた電源を立ち上げた
見れば、みずきからの着信に留守電が
これでもかと言うほど残されて
うんざりした朝を迎えたのは久しぶりだと顎を掻いた
そんなの中、みずきの父親、椎名敬一からの
メッセージもあり再生してみた

「司くん、お疲れ様。迷惑かけて申し訳ない
急だが、明日の夜、二人だけで飲まないか?
君と色々話がしたい」

丁度いい。自分も敬一と会って話をしたいと思っていたところだった。
携帯電話を放り投げるようにビジネスバッグに入れ
シャワーを浴びて出てくると、珈琲のいい香りが鼻をついた。

「これは、危なぇって言ったろ」

使うなと言ったサイフォンのアルコールランプのオレンジ色の
炎が、ゆらゆらと揺れている

「ちゃんと見てるから大丈夫だって」

「使うのがお前だから、危ねぇって言ってんだ。いつもので充分うまいよ」

コツンと、つくしのおでこを指で押して
司は、リビングへ消えて行った
結局、サイフォンで珈琲を淹れ、一口飲んで
満面の笑みをつくしに向けた

「どう?美味しい?」

司は、指でグッドのサインを出した

「座れよ。今日は、引っ越しだ」

「えっ?どこに」

「しばらくフレンチレストランにいてくれ
マスコミにここを嗅ぎ付けられるのも時間の問題だ。送ってく」

「急に▪▪▪もう逢えないの?」

「そんな顔するな▪▪▪必ず逢いに行く
スタッフにも事情を話さないといけねぇし
わかってくれ。それか実家に帰るか?」

「ううん。あっちに行く」

つくしを追いやるようで心が痛んだ

「取り敢えず、シャワー浴びてこい」

「うん」

つくしがシャワーを浴びてる間に、
午前中に、ここを出ると西田と柴崎に連絡を入れた

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バスルームから出てきたつくしは、黙々と片付けをし始め
荷物の少なさを見た司は、身ひとつで
自分の所に来てくれたのだと切なくなった

「店の裏庭に、小さなログハウスがある
お前を驚かせようと思って内緒で建ててた
しばらくは柴崎と同居になるが大急ぎで
増築して住まいは分けるから」

「余計な出費になるし、柴崎さんとシェアでいいよ。気にしないで」

「お前が良くても、俺が嫌やなんだよ」

「柴崎さんのご家族は?」

「嫁と娘がいる。娘と言ってもいい大人だ」

「奥さんに申し訳ない。それに女所帯じゃ
無用心だよ。あたし、ひとりでも大丈夫だから」

「それなら心配すんな。嫁は、亭主がいない方が良いらしいぜ。
娘は警察官だしよ
言ってなかったか?柴崎は、元刑事だ
娘も、その辺の男より腕っぷしは立つ」

「へーっ。元刑事に婦人警官なんだ」

「実家に寄るだろ?俺も挨拶しときたいし」

「ううん、いい。普段からあんまり帰る事ないし、
会おうと思えばいつでも会えるから」

「そうか。父ちゃん母ちゃんに会いたくなったら、柴崎に頼め」

「うん」

「忘れ物ないな」

「花沢類にお世話になりぱなしなのにお礼も言えなかった。
それとね、昨日、散歩で素敵な喫茶店を見つけたんだ
落ち着いたら一緒に行ってくれる?」


「ああ。お前が行きたいとこは、
どこでも行く。生活費は、この通帳に入ってる。
それから、キャッシュカードと
クレジットカードも渡しとく
要らねえって言うなよ。これは男として
お前のフィアンセとしての俺の責任だと思って欲しい」


「ありがとう。預かっとく」

「来年、桜が咲く頃に必ず迎えに行く」

つくしは黙ってコクりと頷いた
カチャリと閉めた鍵の音は
司との楽しかった日々が明日は、もうないと
告げられてるように思えた

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「お疲れ様です」

「怪我、唇は大丈夫ですか?」

「お気遣いありがとうございます。
この通り、すっかり良くなりました」

柴崎が、顎をあげ唇を強調するように付きだし
アピールしたあと、つくしの荷物を
トランクに入れ、後部座席のドアを開けた

「ルートはどうしますか?」

「任せる」

「かしこまりました」

車内でのふたりは会話もなく、つくしは
ずっと窓の外を見たまま。司は気になりつつ
話しかける事はしなかった
1時間ほどして、店に到着した
支配人には予め連絡をしていた事もあり
出入り口に立って出迎えていた
店は相変わらず盛況で賑わっている

「お昼の準備が整っております」

案内されたのは、店内の司の隠し部屋では
なく、裏庭のログハウスだった

「素敵!」

「気に入ったか?当分むさ苦しいオッサンと
同居になるけどな」

広いリビングとキッチン、カウンターバー
木製の階段をのぼると振り分けタイプの部屋が二つある
荷物を運び込んだ柴崎は気を聞かせて店内のスタッフの控え室に移動した

「こんなログハウスあるの気がつかなかった」

「死角になるように建てたからな
さてと、昼飯にしようぜ」

二人で食事出来るのも当分先になりそうだ
つくしは、良く喋り、いつものように残さず豪快な食べっぷり
司は聞き役に徹していた
夜は、みずきの父敬一との約束がある
間に合う時間ギリギリまで、つくしと過ごした。

「そろそろ行く」

「もう、そんな時間」

「そんな顔するな。帰れなくなっから」

「だって、だって▪▪▪▪」

心配させないように、我慢していた感情の波が押し破られ
つくしの頬に涙となってこぼれ落ちた
たまらなくなった司は、つくしを押し倒し
貪るようなキスをした

「近いうちに逢いに来るから」

コクりとつくしも頷いた

「ごめん。笑って見送れそうもない
ここにいてもいい?」

つくしを引き寄せ抱き締めると、
また深いキスをした

=========

「柴崎、頼んだぞ」

「かしこまりました。手配したボディーガードは、
近くの部屋で待機させる手筈になっております」

柴崎に声をかけ、迎えに来ていた西田の車に乗り込んだ。
敬一が指定したbarに向かうため
都内を目指す。郊外を抜け都内で渋滞に巻き込まれたが、
どうにかギリギリ遅刻せずに間に合った

西田を帰し、雰囲気のある佇まいのbarは
そこで長き間、営業しているのがわかる
扉を開けると、すでにカウンター席に
敬一が座っていた

「お待たせしました」

「急に呼び出して、すまなかったね
何にするかね?私は、めっきり酒が弱くなって、子供騙しな酒を飲んでる」

敬一が、持ち上げたカクテルの中身は
シャンディーガフだった
ビールをジンジャエールで割った
アルコール度数が低い酒だ
司は、バーボンのロックを注文した

敬一は、幅の広い二重瞼で
穏和な顔立ちをしていた
若い頃は、さぞモテただろうと思わせる
上品さも持ち合わせている

「マスコミに追い回されて、申し訳ない」

そう言って敬一が頭を下げてきた
司が隣に座るなり、いきなり話を始めた

「司君もご存じの通り、うちは長男、次男
末っ子がみずきで、40で出来た待ち望んでた
女の子。それはもう、可愛くて、
我が儘放題で甘やかせて来ました。
あの子が、君に一目惚れしたらしく
親馬鹿なのは承知の上で、道明寺社長に
司君に付き合ってる女性がいないか確かめたら、
花嫁募集中だと返事が返ってきた
ゴルフコンペで顔合わせして、司君も
みずきの事を気に入ってくれて、付き合っていると報告を受けた時は、
肩の荷がおりたと言うか嬉しくてね。出来の悪い娘だが
君に心底惚れてる。我が儘を言えば叱ってやってくれ」

司は、グラスを傾けながら、黙って
敬一の言い分を訊いていた

全て楓の策略なのか、グルなのか?
敬一は、腰の低い社長として知られている
娘可愛さとは言え、司に迷惑をかけている事を詫び、礼節を重んじている

「なぜうちと手を結ぶ気になられたのですか?
椎名社長に有利な話だとは思えません」

「道明寺財閥とうちとでは、創業の歴史が違います。
我が社は、ベンチャーの域を越えられない。
道明寺財閥も同じように研究機関を持つが、
規模もクオリティも、うちは足元にも及ばない。学ぶべき事が多い。
更なる飛躍を望んでいるだけです」

椎名社長は、嘘をついている
司は、敬一から視線をそらさずにいたのに
敬一が、司と目を合わせたのは挨拶した時だけだ。
何か後ろめたさを感じている
その証拠に、ビジネスの話題を出した途端

「忙しいのに呼び出して悪かった」と

居心地が悪そうな態度を示していた
この変で失礼するよ。みずきの事は
くれぐれも宜しくお願いしますと
深々と頭を下げて、店を出ていった

「ご婚約、おめでとうございます
早速、岳父と酒を酌み交わすなど
ツボをついていますね。道明寺さん」

カウンターの一番端で呑んでいた男が
馴れ馴れしく近寄ってきて、司の横に座った

「奇遇ですね。こんな所でお会いするなんて
お忘れですか?牧野つくしさんの部屋探しを
お手伝いさせて頂いた、不動産屋ですよ」

変な男に絡まれる前に退散だと席を立った

「あなたの叔父上、道明寺望さんには
大変お世話になりました▪▪▪」

男は、司に向かって乾杯のポーズを取ると
ニヒルな笑いを浮かべていた

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