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鍾愛 93

「どうです、景気は」

男は、空になったタンブラーを持ち上げ
カウンターにいる、バーテンダーに見せた
常連客なのか、オーダーも訊かずに
オンザロックのバーボンを男の目の前に置いた


「この店、いい雰囲気でしょう?
それに、氷の質にも拘っている
溶けにくいよう表面積を小さくしたダイヤモンドカットにしてある。
気泡だらけの氷をぶちこまれたら
せっかくの旨い酒も台無しですから。そんなウンチク貴方なら
ご存じでしょうけど▪▪▪」

タンブラーに入った琥珀色のバーボン中に
浮かんだ氷の塊が薄暗い照明に照らされ
プリズムのように光を反射する

「叔父とは、どう言うご関係だったのですか」

24年前、若くしてこの世を去った望の存在を
知る人は少ない。はじめから居なかったように、
彼の事が語られる事がなかったらだ

「ずいぶん世話になりました。
それこそ、足を向けて寝れないくらいに
ですが、道明寺財閥には嫌と言うほど
煮え湯を飲まされた」

どこか掴み所のない、飄々とした男の
軽い言葉が、ずしりと重く感じた瞬間でもあった

「この年で、いまだ独身。私の人生は
憎しみと復讐の二文字しかない。愚かで馬鹿げている。
守るべき存在がいると私の決意が鈍ってしまう
それが怖くて家庭と言う名の癒しの場を作らなかった
いや▪▪▪本来なら、私のような歪んだ性格の男こそ、
癒しの場が必要だったのに」

所々、白髪の混じった髪、笑うと目尻に皺が
刻まれ、肌の質感から男は望と同世代か
やや下に見えた

「なぜ貴方は、そんな話を私にするのですか
今から道明寺を叩き潰す予告のおつもりですか」

司には、男の意図がわからなかった
単なる恨み辛みを酒の席でぶちまける
憂さ晴らしなのか、それとも復讐する機会を狙っていたのか、
タンブラーのバーボンを飲み干し、司は男の横顔に視線を流した
男も、司を見やって、黒縁眼鏡を外した

「広野真一▪▪▪▪」

「やっとお気づきになられましたか
牧野さんを迎えに来た貴方を見たとき、
驚きましたよ。世間は狭いもんだと
で、牧野さんを捨てて、人気女優のご令嬢と
婚約。なりふり構わない泥臭さは相変わらずって訳ですね」

司が探してた男が目の前にいる
叔父望の墓参りで出会い、名刺を置いていったが連絡を取らずにいた
男の肩書きは、投資コンサルタント
なのに今は、不動産屋を名乗っている

「さてと、挨拶も済みました、私は
そろそろ退散します」そう言うと

広野は、席を立ち上がった

「ひとつお訊きしたい
貴方は敵ですか▪▪▪それとも味方ですか」

広野の背中に、司は、期待を込めた言葉を
投げかけた。ふっと鼻を鳴らした広野が呟いた

「随分、エモーショナルな事をおっしゃる」

広野は振り向くことなく、会計を済ませ
店のドアを開けた。バーテンダーのありがとうございましたと言う言葉が、
店を出て行った事を告げていた
司とつくしを取り巻く人間模様は、偶然の出逢いと奇妙な点と線で繋がっていた
広野が帰ったあと、カウンターの中で
バーテンダーがタンブラーを磨きあげていた

「何かお飲みになりますか?」

空のタンブラーに気がつき声をかけた

「同じものをくれ」

「かしこまりました」

バーテンダーに広野の事を訊いたところで
べらべらと客の個人情報を口にするようでは
この店の品格などたかが知れている
みずきの父敬一も馴染み客なら
社会的地位のある人間も出入りする店なのだろう
広野の正体がわからない
根っからの悪人には見えなかった

考え事をしてる間に、ダイアモンド形に削られた氷がバーボンに解けだして、
綺麗なグラデーションになっていた
タンブラーの中の小さな芸術作品に司がみとれ
飲み干したら店を出よう
そう思い手にした瞬間、つくしから貰った腕時計が視界に入った
ハッとしてポケットから携帯を取り出し
コールする。長い呼び出しの後、留守番電話に切り替わった

連絡の取れないつくしの代わりに
柴崎の携帯を鳴らした

「あいつはどうした」

「店を手伝っておられます」

「誰の許可を得て、つくしを働かせてる
すぐ連れ戻して来い!早くしろ!」

司の怒鳴り声が静な店内に響き渡る
背中越しに客達の視線が集まり
バーテンダーは顔色ひとつ変えず
ワイングラスを磨いていた

抑え込んでいた苛立ちを電話の向こうにいる
柴崎にぶつけ
つくしは、その頃、客が引けた店内にポリッシャーをかけていた  
ビル掃除のバイトのお陰で、掃除は得意分野。
手際よく片付けていたところに、柴崎が血相を変えて飛んで来た


「つくし様、今日はこの辺で▪▪」

「もう少しで終わります」

後は、皆さんにお任せして、さぁ▪▪▪
と、必死になる柴崎の携帯が再び鳴った

「つくしは」

「いらっしゃいます」

「代われ」

「もしもし」

「なにやってんだ」

「何って、掃除してた」

「そんなことやらなくていい、今すぐログハウスへ戻れ!返事は?聴いてんのか」

カチンと来たつくしの顔色が変わる
柴崎は、言い返すなと眉間皺を寄せて
合図を送った

「わかった」

「戻ったら連絡しろ」

つくしの手から戻された携帯で、素早く
西田にメールを送る。司様がナーバスになっておられます。

RRRRRRR

「まだ、barにいらっしゃいますか
お迎えに参ります」

西田からの連絡に返事もせず携帯を切った
椎名敬一と二人だけで会うと聞き、
西田は帰るふりをして、万が一の事を想定し近場で待機していた
10分程で到着し、司が会計を済まそうとしたら、お代は頂戴しておりますと返ってきた
椎名敬一に奢ってもらう筋合いはない
二万円を叩きつけるように置いてbarを出た

「お疲れ様でした」

西田が後部座席のドアを開け司が座ると同時に、つくしから連絡がきた

「なに怒ってるの?」

「当たり前だろ!何のため携帯だ」

「仕事中は、持ってないから」

「だったら、働くな」

「どうしたの?言ったよね。仕事しても良いって
その為に、柴崎さんもサポートしてくれてんでしょ?」

「ガタガタうるせぇんだよぉ」

「あっそう。じゃ電話してこないで」

「なめてんのかぁ、てめぇ!連れ戻すぞぉ!」

「司▪▪▪桜が咲く頃に迎えに来てくれるんでしょ?
その為に、あたし達、別々に頑張ろうって決めたんじゃなかったの?」

「悪かった▪▪▪逢いたい▪▪▪
お前に逢いたいんだよぉ!」

「逢いたいのは、あたしも同じだよ
これからは、携帯持って仕事するから
すぐ出れる様にするから▪▪▪」

はじめて出逢ったあの頃の様に
司の心は不安定で崩れ落ちそうになっていた

「明日モーニングコールしてくれよ」

「わかった。ねぇ、Skypeしょう
お互いの顔を見て話できるから」

「明日中に、なんとか出来そうか?」

「大丈夫だと思う」

「Skypeと電話出ないのは別だかんな」

つくしは、クスリと笑ってしまった

「今、どこ?」

「車の中だ」

「そう」

さっきまで機嫌が悪くて我が儘を言っていた司が
落ち着いてきた。つくしはほっとして
自宅に着くまで話を黙って訊いていた
結局、司のたわいもない話に付き合い
気がつけば、朝になっていた
司の事、宜しくお願いします。西田の元へ
つくしのメールが届いていた
恋人と言うより、母親だと笑みが溢れた
ご安心下さい。つくし様もご無理のないように
困った事があれば、柴崎か私にお申し付け下さいと返した。
困ってる事は、司の事くらいです
重ね重ね、お世話宜しくお願い致しますと返信が来た

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y*******a様

こんにちは、拍手コメント頂き、ありがとうございます
桜の花舞い上がる道を二人で歩いて行けるのか?
司の心は荒れ模様です
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