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鍾愛 95

ベッドに大の字に寝転がったつくしは
海藤の取り巻きが奥様は病気で▪▪▪と
言っていた事を思い出していた
彼が問題のある人物だとしても、客として
店に訪れ、病床に伏せっている妻に
美味しい料理を食べさせてやりたいと思う気持ちを
ピシャリとはねのけてしまった
もし、司が同じ立場なら、きっと強引に
ねじ込んだだろう。そんな事をぼんやり考えていたら、
枕元に置いた携帯が振動しているのに気がついて
慌てて手を伸ばした
仕事中、頻繁にかかってくる司のラブコール
てんてこ舞いしている厨房では迷惑がかると
マナーモドにしたまますっかり忘れていた

「俺だ」

わかってるよ。と思いつつ、声が訊けるのは嬉しい

「今どこ?」

「これから帰るとこだ」

仕事帰りに、広野と会ったbarに
立ち寄ったが姿はなかった

「お疲れ様。ねぇ、もし、あたしが病気で
美味しい物が食べたいって言ったら司はどうする? 」

「お前、具合でも悪いのか?何で早く言わねえんだよ」

「違うってば。例えばの話だよ
今日来たお客さんで、コンソラトゥールの料理が
美味しいから、病気の奥さんにも食べさせてあげたいって
人がいたんだ。でも、予約でいっぱいだし、
申し訳ないと思ったけど断ったんだけどね、
それで良かったのか考えちゃった」

「断って良かったんだよ。どの程度の体調か
わかんねぇけど、ひとりの客の要望を聞けば
次からつぎと聞かないといけなくなる
収拾つかなくなるだろうが」

「でも、例外ってあるじゃない」

「うちと同じような店は他にもある」  

「わかってる。でもさぁ、それじゃあまりにも
 人情味ないからね
 無茶な事を言ってる訳じゃないし、他のお客さんに
 事情を話せば変わってくれたかも知れないのに
 無理ですって一言で片付けちゃったから」

「お前が罪悪感、感じる事はねぇよ
 どこまで人が良いんだ
 ところで柴崎は、どこで寝てんだ?」

「リビングのソファ。あんなとこで寝てたら
 疲れも取れないし、申し訳なくって
 お世話になりっぱなしで、足向けて寝れない」

足を向けて寝れない。広野もそう言った

「どうしてそう思うんだ
 柴崎は、仕事を全うしてるだけだろ?」

「そんな事ないよ、柴崎さんは、プライベートな時間なんて
 ほぼないんだよ。あたしの事を一番に考えて
 自分を犠牲にしてる。例え司から言われた事だとしても
 そこまで親身にと言うか、誰でも出来る事じゃない」

「もし、柴崎が、お前を裏切ったとしたら、ムカつくか?」

「ムカつく訳ないじゃん。寧ろ感謝しかないよ
 親みたいな気持ちで見守ってくれてるのに」

広野も、つくしと同じなのか?
味方でないにしろ少なくとも彼は、敵ではないと思えた

「Skypeはどうした?」

「ごめん、何も出来てない。まだ移動中?」

「いや、帰ってきた。シャワー浴びたらまた電話すっから」

「いっぱい声訊けたし、早めに寝て」

「そっか・・・・」

ガッカリした司のため息が電話口から溢れてきた
今度、いつ逢える?そう訊きたかったつくしは
その言葉をのみ込んで電話を切った

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翌朝

「どうして急に、そんな事を、
 いくら、つくし様の頼みとは言え私の一存では・・・」

柴崎が、狼狽えるように言った
海藤の家に行き、直接、お詫びしたいと言い出していた
一人で行く、迷惑はかけない。自分なりのケジメだときかない
昨日の事と言い、今日と言い、司に負けず劣らず頑固だと
柴崎は、頭を抱えた。つくしの意志は固く、
自分も同席させてもらえるならと渋々、承諾した

都内の高級住宅地に、海藤の自宅はあった
他者が安易に踏み込むことを拒む様な威圧感があり
高い門と壁に囲まれ要塞のようだった
アポなしで行っても門前払いだろうと柴崎は思っていた
インターフォンを鳴らすと女性が対応に出てきた
お待ち下さいと待たされた後、門扉が開き
広大な庭に、黒光りしたドーベルマンが数匹放たれている
海藤は、ドーベルマンに待つよう指示を与え、
つくしに向かって歩いてきた。横に居る柴崎に気がつくと
驚いた表情を見せた

「柴崎さん、ご無沙汰ですなぁ」

「お久しぶりです」

柴崎は、捜査四課組織暴力を取り締まる
マル暴の刑事だった事もあり、裏社会のドン
海藤とも顔見知りだった

「突然お邪魔して、申し訳ござません」

つくしが頭を下げた

「構わんよ。横に居る男が居なければ、
 もっと大歓迎だった。お入りなさい」

人を寄せつけない海藤が、つくしと面会するなど
奇蹟に近い。決して隙を与えない男が無防備に思えた
庭からリビングに通され、アンティーク家具で揃えられた
部屋の赤いベルベット生地のシンフォニーソファが
ノスタルジックさを増していた

「どうした、お掛けなさい」

坐ろうとしないつくしの顔を見上げ
気を遣わなくて良いと言いたげな顔をした

「昨日は、大変失礼致しました
 お口に合うかどうかわかりませんが奥様に」

甘い物を殆ど食べない海藤が気に入り
妻の土産に持ち帰りたいとリクエストした焼き菓子を
持参していた

「これは、どうも。妻が喜ぶよ
 で、元マル暴刑事さんとお嬢ちゃんは、どう言うご関係かね
 君が、道明寺家の用心棒になったと訊いたときは驚いた
 そう言えば、やんちゃな司君も、年貢を納めるようだな
 椎名のお嬢さんと婚約おめでとうと伝えておいてくれ」

つくしも柴崎も無言だった
動揺しているかと、心配した柴崎がつくしを見たが
顔色ひとつ変える事無なく、海藤を真っ直ぐ捉えていた

「ご迷惑を承知で、奥様のお誕生日の件で参りました
 お席を調整して、最悪、外のテラス席に
 なってしまいますが、ご用意させて頂けそうです
 失礼ですが、奥様の体調は、如何でしょうか
 出来る限りのサポートをして、お食事を楽しんで
 頂けるようにと思っております」

「妻は末期癌でね。その日によって体調が違う
 コンソラトゥールの料理があまりにも旨かったもんで
 食べさせてやりたかったんだ
 来月まで、持たないかも知れない。それをわざわざ言いに」

「はい。当店の屋号、コンソラトゥールは
 フランス語で癒しの意味です。病床にふせってらっしゃる
 奥様の癒しになればと思い、昨日、あんな言い方をしなければ
 良かったと、ひと言お詫びしたかったので」
 
「お嬢ちゃん、君が一番大切にしているモノはなんだ」

「えっ?」

「答えられんか。私は、金だ。人は平気で裏切る
 だが、金は裏切らん。世の中、お金が全て。そう思わんか?
 お嬢ちゃんがここまで来るにも金が必要だ。乗ってきた車も
 走らせる為のガソリンも、手土産に持ってきた焼き菓子も
 元は、金があればこそ形になる。情など無用の産物だ」

「そうでしょうか。海藤さんが、奥様の事を思う
 お気持ちは、愛情です。無用だとおっしゃられた情です」

「人が唯一、平等に与えられた宿命は、
 寿命と言う名の死だ。こればかりは、金ではどうにもならん
 悪行を重ねて来た私が恐れているのは死ぬ事。出来るものなら
 地獄行きは勘弁してもらいたい。妻に情けをかけるのは
 自分の為にほかならない。少しばかり、善人の真似事を
 しなければ私の罪と罰は帳消しにはならん。ただそれだけだ」

どこまでも非情な男だ。気分が悪い
こうなる事が判っていたのに、つくしを連れて来てしまった事を
柴崎は、後悔していた

「つくし様、そろそろ失礼致しましょう」

二人して立ち上がった瞬間、海藤がニヤリと笑う
柴崎は、しまったと言う表情を浮かべ目をそらした
いつもの癖で、つくしの事を様付けで呼んでしまった
とんだ失態をおかしてしまった

「お邪魔しました」

つくしが頭を下げ庭に出た。先に車に乗っておくように
柴崎が促した

「なるほどな。あのお嬢ちゃんは、司君の女か」

「海藤さん、手を出したら、タダではすみませんよ」

「警察の代紋を無くした君に何が出来ると言うんだね」

「裏で手引きしてるのは、あんたか?」

感情的になる柴崎を見て、海藤はせせら笑った

「司君も、いい男になった
 あのお嬢ちゃんを自分の女にしたあたり見る目がある
 椎名の娘を押し付けられて気の毒な話だ」

怒りで目をギラつかせた柴崎は、返す言葉もなく
背を向け、つくしが待つ車へと歩いて行った

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HN様

おはようございます
拍手コメント頂き、ありがとうございました
私も、ワールドカップは観てないです
日本代表が負けた翌日、職場では寝不足だと言う人が多かったです
南海トラフは近々、来るような気もしています

回れ右してましたか。ごめんなさい
ハピエンで終わる予定です。ご安心あれ!
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