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鍾愛 99

勿体ない・・・
気がつけば寝落ちしていた事をつくしは後悔した
寝る時間さえ惜しいと思っていたのに
司の腕の中で眠る安心感は睡眠薬の様で心地良い眠りを誘った
司と知り合う前は独り寝が当たり前だったのに
ここへ越してきて、眠りが浅くなり、
何度も夜中に目が覚める事が多くなった

コントラトゥールの庭に生い茂る木々にとまった小鳥たちの
賑やかに唄声が、つくしの目覚まし代わりになっていた
夕べはカーテンも閉めずに寝てしまい、
窓辺に佇んで昇る朝日に見とれていた
黄金色に輝く太陽。そのまわりは炎の様なオレンジ色をうみ
雲は茜色に染まっている
ベッドで眠る司の横顔は、痩せたせいで鼻筋が強調され
整った顔立ちがより目立ち物悲しく思えた
もう少しすれば、朝陽が差し込むだろう
睡眠の妨げになってはいけないと、そっとカーテンを閉じた

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足音を立てないように階段をおりて
一番先に目に入ったのは、リビングのソファに置かれた
司の大きなスーツだった。指でなぞると甘いコロンの香りがした
つくしは、ふっと笑顔が溢れ彼が傍に居る事を確かめるようだった

「さて、なに作ろう」

シャワーを浴びたら、朝食の準備をしよう
キッチンの冷蔵庫を開け入っている食材を確認してから
バスルームへ行った

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つくしの食生活は、店の賄い食で済ませている
司が来ることが判っていれば、それなりの朝食も用意出来たのに
痩せた躰が気になって、高カロリーなメニューがテーブルに並んだ
ココットに入れた、ツナのディップ、スクランブルエッグ
庭で栽培しているキュウリとプチトマトを収穫しサラダにした
野菜が苦手な司が食べやすいように、加熱すると甘味が増す
パプリカをオーブンで焼きオリーブオイルをまぶしたもの
店で残ったパンをもらい受け冷凍していた
解凍して、焦げないようにトースターで焼けば味はやや落ちても
市販品と比べ物にならないくらい美味しい
朝9時に出社するなら、もうそろそろ起こさなければならない

「起きて。起きる時間だよ」

このままずっと気が済むまで寝かせてあげたい
司の寝顔を見ていたら、無理に起こさなくても
いいのではないかと思えてしまう
それくらい、彼の寝顔を見るのが辛かった

「早起きじゃん」

「小鳥が起こしてくれるから」

顔を覗き込んだら抱きしめられた

「いいにおい。シャワー浴びたのか?」

「だって昨日、そのまんま寝ちゃったからね」

「何で起こしてくんなかったんだよ
 俺も一緒に入りたかったのに
 お前、結構、セコい手使うよな」

「なに言ってんだか」

「ぐっすり眠れた。いつもは寝つきが悪くて
 酒飲んでから寝るんだ。お前が居るから気がつけば寝てた」

「お酒の力を借りるのは良くないって」

「そうだな・・・・」

なに言ってんだと返ってくるかと思ったら
聞き分けのいい言葉が返ってきた
それだけでも彼が疲れているのがわかった

「朝ごはん出来てるよ。一緒に食べよう」

「何処にも行くな・・・・」

「行かないよ。行くわけないじゃん
 追い出されたら、あたし、家なき子だもん」

司の懇願にも似た言葉が、つくしには堪えた

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共に朝食を食べるのは久しぶりだ
終われば、また別々の日々を過ごすことになる
来年の春・・・短いで様で、途方もなく長い時間の様に思えた
無理をしているのか、司は寝起きにも関わらず
朝食を残さず平らげていた

「料理、上手くなったなぁ」

「シェフの盛りつけ見てたら勉強になるんだ
 質素でも、見せ方で何とかなる!」

「無理に仕事しなくってもいいんだぞ」

「無理じゃない。楽しいから働いてるんだよ
 それに、ここは想い出が詰まった場所だから」

「スゲェー女だと思った」

「何が?」

「お前の事がさ」

「どうして好きになってくれたの?
 奇麗な人、まわりにいっぱいいるのに
 どうして、あたしなの?」

「お前って、おもちゃ箱みたいだから
 何が飛び出してくるかわかんねぇ
 人って、色んな感情持ってんだな
 初めて気がついた。27年間生きてきて
 俺自身、一番驚いた事ってか・・・」

「変な例え」

「そっか?最大限の褒め言葉だけどな」

「そりゃどーも!あのスーツ、クリーニング出しとくから」

ソファのスーツに視線をやったつくしが言った

「いいよ、持ってかえっから」

「お願い、置いといて」

「素直に言えよ。俺の匂いが恋しい・・だろ?」

図星だった。彼の存在を感じて支えにしたい
自分にそんな恋する乙女心があるのが気恥ずかしくもあり
取り繕う理由を考えたのに、あっさり見抜かれてしまった

「そうだよ・・・悪い」

「可愛くねぇのに、可愛いよな・・・お前って・・」

RRRRRRRRRRR

「チッ。西田の奴、邪魔しやがって」

「何でわかるの?」

「こんな時間かけてくんのは、あいつくれぇしかいねぇーんだよ」

「俺だ」

「今、そちらに向かっております。8時には
 到着出来ると思います」

「そうか・・・」

「どうしたの?」

「8時に迎えに来るってよぉ。そんな顔すんな
 帰れなくなっちまう」

「後、1時間だね」

一日もあっという間に過ぎるのに、1時間と言う
タイムリミットは、ふたりにとって放たれた矢のように
速く感じられた。

青空と緑に囲まれた庭に不釣り合いな
黒塗りの高級車が静かに停まった
気をきかせた西田は、ドアのチャイムを鳴らさなかった

「そろそろ行く・・・・」

「うん・・・・気をつけてね。無理しないで」

「わかってるよ」

「おはようございます」

申し訳なさそうな表情を浮かべた西田が挨拶をしてきた

「おはようございます。こんな遠くまでお疲れさまです」

見送りに出たつくしは、西田に声をかけ
曲がっている訳でもない司のネクタイを直した
目の前でいちゃつくのは気が引ける
別れ際、司に触れたいと言う思いが、そうさせた
司も無言で、つくしの手を包み込んでいた

「電話すっから」

「待ってる」

車が見えなくなるまでつくしは見送り
司も窓を下げて、その姿をじっと見つめる
余韻に浸る中、西田は昨日、夜の銀座での出来事を話しだした
そうしたのは、司の為でもあった
つくしと密な時間を過ごした後は、抜け殻の様になる
早めに切り替えなければ司のストレスが半端なくのしかかる
病むのではないかと心配する程だった
日中は、会いたくも無いみずきと約束もあった
勘違いされないように西田も同席予定だ
今、別れたばかりなのに、司の携帯は、つくしへとコールしていた
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