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鍾愛 103

扉を開けた瞬間、広野は思わず眉を潜めた
キャッチーな曲に合わせて、黒い人影が踊っている
ここは、件のクラブ。
若者達の熱気と歓声が異空間のようで面食らった
暗い店内に色とりどりのレーザー照明が
ミラーボールに反射して、バブリー期の
ディスコを思いださせた

一緒にノリノリに踊る程、若くもない広野は
人の波にぶつかりながら、
どうにか、カウンターバーまでたどり着いた

「オジサン、見ない顔だね。初めて?」

端から見れば十分、浮いた存在なのは自覚している
たが面と向かってオジサンと呼ばれたら複雑だ
胸を強調したブラックファッションを身に纏い
流行に敏感そうなギャルが声をかけてきた

「ねぇ、一杯ごちそうしてよ。あたし理香
オジサン何て言うの?」

「えっ?俺?・・・修一」

「修一かぁ。名前は、まぁまぁ。
でも、ルックスは、イケてるよね。凄くタイプ」

「それは、どーも」

「修一って呼んでいい?」

「いいよ。オジサンって呼ばれるよりかはいい」

「何か頼んでいい?」

「どーぞ。未成年じゃないよね?」

「違うってば。失礼ね。そんなに子供ぽい?
これでも、23なんだけど」

巻いた髪を無造作にまとめ
濃いめのメイクも似合うなかなかの美人だ

「最近の若い子は年令不詳だから
一応、聞いてみないと」

不服そうな表情を浮かべた理香は
バーテンダーとも親しそうだった

「あたし、ソルティードッグ」

「じゃぁ、俺はジントニックで」

「それにしても賑やかだね」

「当たり前じゃん!ここ、クラブだよ。パリピ族なんだから」

「パリピ族?なにそれ?」

「知らないの?パーティーピープルの略
お祭り騒ぎが好きな集団って言ったら
わかりやすいかな?」

「ふーーん。パリピねぇ」

父娘ほど年が離れている理香と、
この雰囲気は、とてもついていけそうにない
暗い店内と人の多さで、正樹を見つけるのは
至難の技。おまけに面識がない
唯一の情報源は、経済誌に掲載された写真
あきらは、すぐわかったと言ったのは顔見知りだからか?
それともあか抜けないファッションセンスが人目を引いたのか?
あれこれ考え、自身のコーディネートも
イマイチだと、ふんっと鼻を鳴らした

「理香ちゃんは、よく来るの?」

「週3くらいかな?いい男見つけに来てるんだ」

「いる?いい男?」

「あたし、修一みたいな年上が好み!」

「ずいぶん年上なんだけどなぁ」

「ねぇ、ねぇ、アイツみて!」

理香が、ジャケットの裾を引っ張って来た
視線の先にいる男を暗闇でフォーカスする
フロアの右端に派手な女達に取り囲まれた男がいた


「あの男がどうしたの?」

「なにやってるか知らないけど
凄いお金持ちらしいよ。女子達が群がってるでしょ?」

「知り合い?」

「話した事はあるけど、タイプじゃぁない」

「名前なんて言うの?」

「正也。本名かどうかわかんないけど
ここでは、ニックネームで
呼ばれてる子も多いから」

「若いのに金持ちかぁ。羨ましい
いくつくらいだろうね」

「27って言ってた」

正樹も27。正也と名乗る男と同じ年だ
近寄って確認したいところだが
不自然な接近は怪しまれる

「彼は常連?」

「そうだよ。とっかえひっかえ女はべらせてる
軽い男よ。どこが良いんだか」

「お代わりしていい?」

「いいよ」

「修一の連絡先教えて」

理香は使えそうだ
広野は連絡先を教えて、その日は
深入りしないことにした
二杯目のジントニックを飲み干して
先に帰ると理香に伝える
今、来たばっかじゃんと膨れっ面をする
彼女は、無邪気で可愛い
長い間忘れていたときめきに、自分の年を
考えろとセンチメンタルな気持ちを置いて帰った

==========

「なんだと!もういっぺん言ってみろ」

鼓膜が破れるのではないかと思うほどの
怒鳴り声が携帯越しに響き渡る

「申し訳ございません
昨日の夜、お部屋に入られたのは確認したんですが」

激怒する司に責め立てられ
柴崎は、言い訳の言葉しか出てこない
確かに昨日の夜、仕事を終え、風呂からあがった
つくしとリビングで少し雑談交わした
なんら変わった様子もなく階段の下から
部屋に入ったのも見届け、自分もシャワーを
浴びにバスルームへ行き、寝酒に350mlの缶ビールで
一杯やったが酔うほどの酒量ではない。
柴崎は、どちらかと言えば底無しに飲める酒豪だ。
風呂上がりの水分補給のビールで
ホッとしたのは確かだ。隙が出来た
まさか、つくしが居なくなるとは思っても見なかった

翌朝、早起きのつくしの姿がリビングになかった
女性ボディーガードに部屋をノックさせたが無反応
疲れて寝坊しているなら
無理に起こさなくてもいいと気にも止めなかったのは
部屋に居ると思い込んでいたからだ
さすがに昼になっても起きて来ないのはおかしい
何度もノックしても反応がない。焦りながら荒々しく部屋に突入した

「消えた・・・部屋からつくしが
跡形もなく忽然と消えていた」

みる限り、争った形跡はない
違った事と言えば、観音開きの窓が開いていたこと
柴崎は、全開にした窓の下に視線をやった
この高さから飛び降りたのか?
つくしの部屋は玄関ドアの上
外観のデザインに拘った司が、
玄関のアクセントと雨避け、アプローチからの
目隠しになるよう設計士に依頼し
木製の柱とアクリル板を組み合わせた
1m四方の庇を造らせていた
2階の窓から飛び降りてもバランスを崩さなければ着地できる
庇を使えば外に出ることは十分可能だ
どうして、逃げるように出ていったのか
荷物も持って行った様子もなかった
つくしの性格なら、黙って出ていくはずがない
置き手紙の類いかないか調べてみても見つからなかった

「いつもと違う事が必ずあったはずだ
何でもいい思い出せ」

イラつく司の言葉で記憶の断片を辿る

「数日前、海藤が食事に来て
つくし様と、ほんの短い時間でしたが
庭の散策に行ってました。
様子がおかしい事もなかったので
安心していたのですが・・・・」

「何で、海藤が来たことを言わなかった」

柴崎は答えられずにいた
海藤を警戒したのは確かだが、過去訪れた際も
数日前もトラブルにはならなかった
単なる客として来訪したとの見識が甘かったと後悔した

「海藤が絡んでるとは限らねぇ」

司は、まるで自分に言い聞かせるようだった
何故なら、どういう男か嫌と言うほど知っているからで
金の為なら何でもする男だ
人ひとり闇に葬る事など簡単に出来てしまう

「申し訳ございません」

柴崎は、それ以上、返す言葉が見つからない

「グズグズするな。草の根分けても探しだせ」

司も、そう言うしかなかった

「捜索願いは・・・・」

「出すな。誰が絡んでるかわかんねぇ
下手な動きは命取りになる」

「かしこまりました」

つくしに電話にかけても、電源が入っていないか
電波の届かない場所にいるかと音声ガイダンスが
流れるだけだった

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