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鍾愛 107

司が海藤邸に乗り込んで来た日
高い門扉と犬達に阻まれたお陰で
屋敷に入るまで手間取ってしまった
監視カメラの映像を見て、一之瀬が慌てて
つくしを部屋から連れ出し、書斎にある隠し扉から
地下室に荒っぽく押し込めた
この屋敷に来て、粗末な扱いを受けた事はなく
一之瀬は苦手だが、海藤は紳士的で
何かと気を使ってくれていた
相手の懐に入り込まなければ、
心の内も理解できない。そう思ったつくしは
海藤と向き合うことにした
彼の日課は、穏やかなもので、
本を読んでいるか、犬達の世話が大半だった
さすがに高齢で散歩は、他の者に任せているが
感心するほど細やかなケアをしていた

「わんちゃんの名前は何て言うんですか?」

離れ一棟、冷暖房完備の犬達の棲みか
専用の大きなドアから庭へ自由に出入りできる
夕暮れ時、庭で犬達と遊んでいる海藤に
声をかけた

「おいで。右からドル、ユーロ、ポンド、フランだ」

海藤が呼ぶと乱れる事なく一列に並んでお座りをした

「お金の名前!」

「いい名前が思い付かなくてね。それなら各国の
紙幣の名をつけたらどうかと一之瀬が言うもんだからそれも良いと思ってね」

「みんな同じ顔にみえちゃう」

「そうか?性格も顔もみんな違う。個性があって
見てるだけで面白い。イタズラしたり、喧嘩したり
人間の幼児みたいなもんさ」

「お嬢ちゃんは、どうして司君と知り合った?
あの子も昔は、相当やんちゃで悪名が轟いていたからな
さすが、道明寺の倅と陰で言われておった
私は、あれくらい破天荒な息子の方が好きだがな」

「猫を拾って、困ってたら、彼が引き取るって声をかけてきたんです」

「ほーーう。ナンパってやつか?」

「いいえ。仕方ないからです。彼の会社の建設現場に
住んでた猫ちゃんだったから」

「そう言う出逢いもあるんだな。
うちの倅は、背中丸めて勉強ばかり
今は、学者をしてるんだ。司君のような男なら
迷わず後継者にしたよ」

「息子さん達と会ってらっしゃらないんですか?」

「長いこと会ってない。結婚して所帯を持ってる
息子の邪魔だけはしないと決めている
私のような父親では世間に顔向け出来ないと
抜かおった。哀れみは無用だ。自分で選んだ道だ
後悔はしとらんよ」

毅然としたイメージしかなかった彼も
人の親であり、この先、長くはない人生の終焉を見据えているようでもあった

「お嬢ちゃんのご両親は、どんな人だね」

「養父は、ぐうたらでお人好し
家族に迷惑ばっかりかけてるけど憎めない人です
養母は、とにかく明るくて、楽天的。実の娘の様に
育ててくれました。本当の両親の想いでは残念ながら
ありません。あの、奥様は▪▪▪▪」

「お嬢ちゃんが屋敷に来た後、すぐに亡くなってね
あの焼き菓子は冥土の土産に持たせてやった
人の縁と言うのは不思議なもんだ。良縁、悪縁に関わらず、
その人間から学びがあるうちは、
縁が切れんのだよ。切れたときは学びが無くなったから
自分の人生から退場してもらう。最悪な出逢いであったとしても、
どの出逢いも無駄な出逢いは何一つない学びを活かすも殺すも自分次第。
気に食わんと騒ぎたててる奴ほど、ろくなもんじゃない。
失笑されているのに、それさえも気がつかん。愚かな事だ」

「そこまでわかってらっしゃるのに▪▪▪」

「なぜ、こんな商売をか?魔に魅入られたんだ
人が経験出来ない事を色々知ることが出来た
波乱万丈。唯一の心残りがあるとすれば
心の借金だ。いまだ返済出来ておらん
世間で言うところの終活をするとしたら、
その借金を返さなければ。死にきれん」

「心の借金?」

「お嬢ちゃんは、まだ若い。色々な人との出逢いで
いずれ私の言った意味がわかる時が来るかも知れん
さて、中に入ろうか?明日から、お嬢ちゃんは不自由を強いられることになる
この屋敷から一歩も出ることは出来ん。そのつもりでいなさい」

穏やかだった口調が急に荒々しくなり
つくしは、海藤の横顔を見つめていた
根っからの悪人じゃない
どうしてこんな事するのか。彼の言う
人との出逢いで、魔に魅入られる事もなかったのに
深く刻まれた皺が彼の苦悩を物語っている
救ってくれる人はもういないんだろうか▪▪▪

==============
司は、広野と別れた後、
間借りしてる類のマンションに戻ってきた
ついこの間まで、つくしがいて
あれほど嫌っていた生活感に安堵し
帰れる場所がある幸せを感じていた
久しく幼馴染み達にも会っていない
隣に住む類でさえ顔を合わせていなかった

「類、起きてっか?」

リビングの続きドアから声をかけてみた

「起きてるよ。彼女元気?夏になったら
蝉を探しに行く約束してたのに、
落ち着くまで無理だね。なんか飲む?」

「お前って、悩み事無さそうでいいよなぁ」

「悩み事って思わなければいいじゃん
人間なんて、煩悩にまみれてるんだから、
108つもあるしね無駄な抵抗だよ」

「茶化してるのか?」

「別に。ワインでいい?」

「何でもいい。メチルアルコールでなきゃなぁ」

くだらないやり取りでも、軽口を叩ける
親友の存在は、ありがたかった

「新聞なんかとってんのか?」

「一応ね。社会人として目は通してるって程度
そろそろ古いの処分しないと思いながら
めんどくさくて、そのまんま」

部屋の片隅に置かれたストッカーが目についた
司が近寄って、適当に引っこ抜いたら
3月の新聞だった。類の奴、どんだけ溜め込んでんだ
ソファーに座り広げる
読むつもりはなかったのに社会欄に書かれていた
記事に釘付けになった

「これ、貰ってもいいかか?」

「いいよ。どうせ捨てるだけだから
気になるニュースでもあった?」

「ちょっとな」

類のワイナリーの白ワインを一杯だけ飲んでから部屋に戻った

========
朝一番、西田と柴崎を呼んで
類に貰った新聞記事を二人に見せた
柴崎は、元○暴だけあって知っていた
西田も記憶にあるが、直接関わることでもないと
読み飛ばしたと話した

「これが何か気になりますか?」

「昨日、広野さんとミスティで飲んだ時
客とバーテンダーが、モルヒネの話をしててよ
聞き流す内容だがよ、椎名の息子が
ヤバいパーティーしてるらしいって聞いて
妙に気になった。で、偶然にもその記事を見つけたって訳だ」

「凄いですよね。麻薬を液体化して、別の分子構造にする
国内に持ち込み、その分子を元に戻せば
覚醒剤に戻るってのには驚きました
麻薬探知犬でも、嗅ぎ分けられない
おまけに分解してし別の物質にしてしまえば
違法ではない。考えましたよね」

柴崎がやたらと感心していた

「さほど知識がない人間でも出来ると言うことは
製薬メーカーで研究所がある椎名なら
お手のもんだろ?正樹の羽振りの良さは
これかも知んねぇと思ってよ」

「なるほど▪▪▪」

「海藤なら、裏社会に顔が利く
すでに情報を握ってる可能性も高い
この手の話には、ややこし連中が絡んでっから
簡単に手をだせねぇのが痛いところだ」

「視察と言って乗り込みますか?」

「無駄だ。あの爺さんの動きを見るしかねぇな」

「ようやく概要がハッキリしてきましたね」

「黒幕はわかんねぇけどな」

多分、司の読みが当たっているだろう
と、西田も柴崎も思っていた
つくしの居所は海藤が絡んでいるはず
下手な動きは出来ないのが歯がゆくもあった

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