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鍾愛 113

「お嬢ちゃん、悪かったね」

間島が帰った後、地下室に閉じ込められたつくしに
詫びを入れるため海藤がやって来た
地下室と言えば聞こえは悪いが、薄暗い洞穴の様ではなく
普通の部屋と変わらないどころか豪華な隠れ家と言った感じだった

「物騒な客が来てたが、もう帰った。出てきても大丈夫だ」

「いったい何を考えてらっしゃるんですか?
 あの話しは、どうなってるんでしょうか?」

確かめるように、つくしが訊いてきた

「物事には順序というものがある。それなりの準備と
 根回しも必要だ。私は約束は必ず守る。どんな事があってもな」

この人の哀しさはなんなんだろう
海藤の背中は、これまでの人生を物語っているように思えた
彼が生きてきた波瀾万丈の道程が背中に凝縮されているように思えて
後ろ姿など気にも止めなかったつくしがハッとさせられた

「心配は無用だ」

「えっ?」

振り返る事無く海藤が呟いた
つくしの心は、その言葉にざわめきながら
フランと共に、自室へ戻り、
海藤もリビングに行ったようだった

「目障りなのが張りついてます」

「丁度いい・・・・4課さんが守ってくれているのは
 ありがたい・・・・・」

「こちらも動きにくくなります」

「後は、タイミングだけだ」

「考え直して頂けないのですね」

「お前も身の振り方を考えておけ」

リビングのソファに坐り、淡々と話す海藤に、
一之瀬は唇を噛むしかなかった

==========

「わかったか」

「いいえ、それがなにも掴めません」

司は、西田に海藤の素性を調べるように指示をしたが
経歴を調べても、過去が全くわからない
秋山も同様で、足取りが掴めるどころか
存在自体が消去されてるようだった

「一つだけ共通点がある
 俺も、つくしも、広野さんも、秋山も」

デスクチェアーに坐り西田の報告を訊いていた司が
窓の外へと視線を移す。西田は、司の言葉を待っていた

「道明寺と叔父だよ。関わってる人物が一人増えた
 それが秋山だ海藤が秋山だとしたら・・・
 柴崎、あの屋敷の様子を見てきてくれないか?」

西田と共に司の部屋に居た柴崎に言った

「かしこまりました」

柴崎は、如月に運転させ海藤邸に向かった
屋敷の近くになるとスピードを落として様子を伺う

「それにしても、凄い豪邸ですねぇ」

お喋り好きな如月は相変わらずだ
何処までも続く外壁に驚いた様子だった

「とめろ・・・・」

柴崎の声で一時停車した如月は、シフトレバーをPに入れた

「ここで待っててくれ」

助手席のドアを開け、外に出た柴崎は、汚れひとつない
黒光りした車へと歩いて行った
しばらくこの場所で待つことになるだろうと
如月は、サイドブレーキを踏み込んだ

ゆっくり車に近付く柴崎に気がついた男が、
唇の端にタバコを咥えながら車から降りてきた

「その吸い方は、変わらんな」

出てきたのは、間島だった
間島は、フィルターを噛んでタバコを吸う癖がある
そのため、やや斜め上を向き、ぐにゃりと歯型がつく
吸い殻を見ただけで彼の物だとわかるくらいだった
煙が目に染みるのか、眉間に皺を寄せた顔は迫力があった

「お前、人相が悪くなったな」

「ここの主にも同じ事を言われましたよ
 もう嗅ぎつけたんですか?」

間島は、屋敷を見上げながら煙を吐くと携帯していた灰皿を
ポケットから取り出してタバコを投げ込んだ

「ご無沙汰してます」

間島に仕事のいろはを叩き込んだのは柴崎だった
敬意をはらうように深々と頭を下げた

「出待ち(侵入)されたら、かないませんからね」

張り込みしている理由をうっかり喋ってしまった

「どこで情報仕入れたんです?このご時世、
 SNSで拡散なんて珍しくない話ですが」

「ロク(死者)がでたのか?」

柴崎が、探りを入れる様に訊いてきた

「いいえ。ドンパチ騒ぎですよ。相手が海藤ってのが
 ひっかかりましてね」

「中に入ったのか?」

「これからの話すのは私の独り言です」

そう言ったのはオフレコ扱いにしてくれと言う意味だった

「入りましたよ」

「変わった様子は?」

「いつも影みたいにくっついてる
 一之瀬の姿がなかったくらいです」

「他に誰か居なかったか?」

「誰か?ずいぶん詳しいじゃありませんか
 先輩は、何か知ってるんですか?」

「知ってたら訊かんだろ。お前の顔見たら、
 ついな・・・昔に戻った錯覚に陥っただけだ」

まずいことになっている
柴崎の表情が一瞬曇った事を、間島は見逃してなかった

「邪魔したなぁ」

「偶然の再会でも、お会いできて嬉しかったですよ」

「今度、一杯やろう」

「楽しみに待ってます。番号は変わってません」

間島に背を向け歩き出そうとした柴崎に向かって

「情報提供お待ちしています」

そう言うと、灰皿に捨てたタバコを取り出し火をつけると
ニャリと笑っていた
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