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鍾愛 115

「おはようございます」

「おはよう」

リビングの大きな一枚窓は朝だと言うのに
カーテンが閉められていた
恐る恐る、つくしは、ダイニングテーブルの椅子に座る
昨日の事はバレていないのか?
新聞を見開き読んでいる海藤の表情が全くわから

朝起きると、鰹だしのいい匂いがキッチンから漂ってくるのに
今朝は、それがない

「湯川さんは?」

「出かけてる」

一之瀬が無愛想に返してきた
朝食は、用意されておらず、つくしは思わず口出した

「私で良ければ、何かお作りしましょうか?」

「それは、ありがたい」

新聞を奇麗に畳ながら海藤が呟いた

今までは、湯川から手伝わなくて良いと言われていた為
つくしが食事を作ることはなかった
初めて入ってみると、そこはキッチンと言うより
本格的な厨房で、シンクや調理台、ガスコンロは鋳物の業務用
意外だったのは、神仏など信用しなさそうなのに
東側に火の神、荒神様が祀ってあったことだ

つくしが朝食を作ることがわかっていたかのように
調理台には高級料亭でも使われる本枯節が置いてある
メニューは毎朝決まっていて、変わると言えば味噌汁の具材くらいだ
ご飯、味噌汁、だし巻き卵、焼き魚と漬物
海藤と一之瀬の他、ボディーガードが3人居る
6人分の朝食を手際よく作るとダイニングテーブルに運んだ

海藤は、食べ物を決して粗末にしない
ご飯が炊き上がると亡き妻へ手を合わせに行く
根っからの悪人ではないと思わせたのはこうした彼の行動が
見せかけでは無いとわかっていたからだった

「体調は、どうだ?」

「お陰様で、もう大丈夫です」

「昼一番で、お嬢ちゃんには引っ越ししてもらう」
 
「えっ?引っ越し・・ここに居たらダメなんですか?」

「迎えの車が1時に来る。それまでに荷物をまとめておきなさい」

司にメッセージを伝えた事がバレたのか?
突然の引っ越し命令に、つくしは戸惑いを隠せなかった
海藤に逆らうことは出来ない
仲良くなったフランとも離れ離れになってしまう

「わかりました」

朝食の後片付けをして自室に戻ると言われたとおり
荷物をまとめだした
フランは邪魔もせず部屋の隅でおとなしくしている

午後1時 2トントラックが到着した

「降りてこい」

一之瀬が呼びに来た

庭を見ると犬舎に居るはずのドル、ポンド、ユーロが
バリケンに入れられていた

「今朝の朝食は美味しかったよ」

つくしは無言だった

「この中へ入れ」

目の前にあったのは段ボール箱

「トラックに積み込んだら出してやる
 それまでは絶対に騒ぐな。わかったな」

何処へ連れて行かれるのか?命令口の一之瀬を
キッと睨みつけたつくしは、身体を小さくして中に入った
海藤邸の門扉がゆっくり開いた
ガムテープで蓋をされたつくしの段ボール箱も外に出された

「何の騒ぎです」

間島が近づいてきた

「あんたも、ひつこいね
 出世して現場に出なくてもいいはずだが」

「面白いことが起こりそうで、たまに見に来てるんですよ」

間島の咥えタバコが喋る度に上下する

「年に一度、信頼のおけるドッグトレーナーの元で
 再訓練してもらってるんです」

「ほーーう。それは感心ですなぁ」

次々に、バリケンに入れられた犬達がトラックに運ばれていった
間島は、何か変わった事が無いか凝視している

「その段ボール箱は?」

「これは、犬達に必要なものです
 なんなら、開けて中身を確かめますか?」

「いいや、結構です。で、海藤さんも同行されるんですか?」

「私はここへ残る」

つくしは、段ボール箱の中で海藤と間島の会話を訊いていた
いったい、どこに連れて行かれるのか?
大声を出して助けを求めれば・・・・
迷っているうちにトラックに運び込まれてしまった
ギィィィィーとパワーゲートが上がってくる音がする
段ボールの中は、あつくて息苦しい
あっという間に滝のような汗が流れ出していた

イグニッションキーを回してエンジンが始動すると
ブルブルブルブルと小刻みな震動が荷台まで伝わってきた
トラックが出発するのを見届けると海藤も屋敷の中に入って行った

「テンプラナンバーですかねぇ(偽造ナンバー)」

間島の部下が耳打ちしてきた

「犬も乗ってんだ。そんな事はないだろう
 念のためひかえておけ」

安全な場所に犬を移動させた可能性がある
これから何かが起こる。間島の勘がざわめいた

「今度は、私の番だな」

リビングの定位置に坐ると静かな口調で一之瀬に伝えた

「オヤジ・・・」

「私に、義理立てすることはない」

「いえ、一緒に着いて行きます」

「お嬢ちゃんが無事到着したのを確認出来たら出発しよう」

一之瀬はかつて、ヘビー級プロボクサーとして活躍していた
ちょっとした小競り合いで相手を殴る傷害事件を起こし引退した
そのあとは、絵に描いたように裏社会に身を置くようになり
ある事件をきっかけに組から追い込みをかけられ
偶然居合わせた海藤に拾われ命拾いした
彼は命の恩人だと、忠誠心を誓い影のように離れなかった

つくしを乗せたトラックは、
人気の無いサービスエリアまで到着すると、
キャンピングカーに乗り換えさせられた
今や相棒になったフランが一緒にいる事が
つくしにとっては救いだった

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「あの爺さんは、何を考えてるんだ」

司達の密談場所は、コントラトゥールになっていた
つくしが書いたメモを、西田、柴﨑、如月に見せた

「どこで手に入れられたんですか?」

柴崎が驚いた顔で訊いてきた

「昨日の夜中、海藤の屋敷を見に行ったら、
 あそこの犬が近寄ってきて、首輪に挟んであった」

「ご存知でしたか?」

「何がだ?」

「発砲事件があった事です」

「何だと・・・どうして言わなかった」

「申し訳ございません。言い訳になりますが
 4課が張り込んでます。おいそれと、あの屋敷には近寄れません」

「どうして発砲されたんだ」

「理由はわかりません」

「サツは、何か知ってるのか?」

「いいえ。わからないから張り込んでるんだと思います」

「ババァの動きもない。椎名の息子もクラブには顔をだしてない
 おかしかないか?
 丁度良い、サツがいるなら、正面切って乗り込んで行ける」

「・・・・・・」

西田と柴崎は何も言えず黙ったまんまだった
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