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鍾愛 118

海藤と一之瀬は、書斎から通じる地下通路を使って外に出ると
待たせていた、古いステーションワゴンに乗り込んだ
スクラップ寸前の車はサスペンションがへたりきって
悪路を通る度に、後部座席の揺れが半端ない
あまりの乗り心地の悪さに、どうにかならんのか
一之瀬が運転手に文句を言う

車は、人があまり通らない裏道を抜け
着いた場所は、洞輪沢港
台風や冬季荒天などの暴風雨時に小型船舶が
避難停泊するための港湾で他の港湾のように 
旅客の乗降・貨物の積み卸しの機能は期待されていない
外洋からの波浪や暴風を防ぐための防波堤などの
外郭施設に限られる避難港だった
港に着いたら、思いとどまる様、
最後の説得をしようと思っていた一之瀬は
精々しさすら感じる海藤の横顔に、あたふたしている
自分のみっともなさに気がついて無言で海を見つめた

ふたりは、キャップを目深にかぶり
ウィンドブレーカーに長靴をはき
釣り人を装い碇泊していた高速船に乗り込んだ
甲高い鳴き声をあげながら無数のカモメが船を取り囲む
海藤は、海から運ばれてくる潮風を思い切り吸い込むと
一度だけ後ろを振り向き、別れを告げる様に静かに目を閉じるた
一瞬、凪状態になると、また海風が流れだした

空は、どこまでも青く、時折、ボォーーっと鳴る汽笛が聴こえる
静岡の下田港、愛知、和歌山、鹿児島と避難港に到着する度
船を変え、沖縄から台湾経由でマレーシアに入国した

間島は、つくしと海藤の足取りを追う為
高速道路のライブ映像、オービスの記録、
目撃情報の収集をするよう部下に指示を出していた
見つからない・・・・
どれも決め手となるものは得られなかった
海藤が一之瀬と共に姿を消してすぐ、どうやら件のクラブが
閉店したらしいと広野から司の元へ連絡が来た

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運命と言う名の出逢いと別れがあるなら
今の自分が、正にそれだと、つくしは無理やり
納得させようとしていた
昨日は、疲れきって、部屋に案内されるとシャワーも浴びずに
眠りに落ちていた。目が覚めたら傍にフランがいた
ここは何処なんだろ?海藤のセカンドハウスなのか?

ノックと共に湯川の声がきこえてきた

「お目覚めになられましたか?お食事をお持ちしました」

部屋の振り子時計が午前11時を指していた
昨日の夜から何も口にしていない
ドアを開けると、屋敷に居たときとは別人のような
湯川が笑みを浮かべ、ブレックファーストを運んできてくれた

「ありがとうございます。ここは何処ですか」

聞いても答えてはくれなかった

海藤が消えて1週間たった頃、事態が急展開する
間島が、会いたいと、司に連絡を取ってきた
ひと目につかない場所がいいと言われ
類に間借りしてるマンションで会うことになった
間島は、目立つ車ではなく、電車に乗りひとりやって来た

「お忙しいのに、時間を作って頂き、ありがとうございます」

いつもの粗野感を隠した間島が紳士的に挨拶してきた

「わざわざ来たんだから、いい話を土産に持って来たんだろうな」

威嚇するように司が噛みついてきた

「残念ながら、道明寺さんがお気に召す
 手土産にはならないと思います」

「立ち話も何ですから・・」

柴崎がに坐るように促した
間島は、いつもの癖で、無意識にタバコを探り
ポケットから手を出そうとしたが、場の空気が
それを許さない事に気がつき諦めた

「椎名に、捜索差押許可状(捜査令状)がおりました」

「何で急にそんな事になった?」

柴崎が驚いた顔で聞いてきた

「それなりの物が揃ったからです
 さした(密告)のは海藤です
 立場上、詳しくは言えませんが
 恐らく彼らは、もう、日本には居ないでしょう
 いくら海藤に力があるとは言え
 ややこしい連中を敵に回したんです
 死ぬまで、追われ続ける事になる。椎名にも、三島組にも
 関わりのない彼が、命がけでそこまでする理由がわからんのです」

隠してる事があるんじゃないのか?間島の目がそう言っている

「つくしは、どうした
 海藤の話なんて俺には、どうでもいいんだよ」

ドスをきかせた司が間島を睨みつけた

「日本の警察は優秀なはずなのに
 女ひとり見つけられねぇのか?何やってんだ」

「手を抜いてる訳ではありません
 全く情報が入って来ないんです申し訳ありません」
 
「俺のフィアンセが誘拐されたってのに、
 あんたは、海藤の話しかしない
 つくしの事じゃなく、あの爺さんの情報を
 探りに来ただけじゃねぇーか」

「歩き方に特徴のある男をご存じないですか?」

司が怒るのも、もっともだと思いながら間島が訊いてきた

「知らん。こんなとこで油を売ってねぇでとっとと探しに行けよ」

司は、嘘を言ってない。これ以上居たら殴られそうだ
 
「お時間を取らせてしまいました。先輩、私はこの辺で失礼します」

間島は、会釈してソファから立ち上がると玄関に向かった
柴崎が、見送って来ますと声をかけてから一緒に退室した

「今頃、ガサイレしてますよ。これでもかってくらい
 海藤が、証拠の品を贈ってくれましたから」

「歩き方に特徴のある男って何だ?」

「こっちも、それなりに情報を集めてきました
 その中で、顔は見えなかったが、歩き方に特徴のある男がいたと
 数人が証言してるんで、ちょっと気になって訊いただけです」

「仲介役なら居て当たり前だろ?」

「そりゃそうです。ま、追々、わかっていくでしょう」

互いに、もう少し話をしたかったがタイミング良く
EVが到着した

「また連絡します」

「タバコの本数減らせよ。身体にもよくない
 ニコチン臭いと、愛美ちゃんに嫌われるぞ」

柴崎が、心配顔で言ってきた

「全くです。娘と会う度に、タバコをやめろって言われてます」

照れながら間島は、父親の顔になっていた
ドアが閉まり、降りていく表示灯を見ながら
柴崎は、歩き方に特徴のある男の事を考えていた
正樹を犯罪に加担させた黒幕がいるはずだ
この一件で、椎名の信用が失落する事は間違いない
楓の耳にも、すでに一報が届いてた
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