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鍾愛 120

軽井沢の邸宅に軟禁状態のつくしが
唯一許されたのは、庭に出ることだけだった
緑の絨毯が敷き詰められた庭に設置されたテラスの傍に
植樹されたハルニレが左右いっぱいに大きく枝を伸ばし
丁度いい木陰を作っていた

「まるで、あいつみたいに大きな木だ」

見上げると司を想い浮かべていた
直径1Mほどある大木に両手を広げて抱きついて
目を閉じれば、不機嫌そうな司の顔がプレイバックされる
最悪の男だったはずなのに、いつの間にか最愛の男になっていた
愛しい司の分身が、今、自分のお腹の中に宿っている
妊娠していることを湯川に打ち明けたら、海藤の耳に入って
ここから出してくれるのではないか?
屋敷に居たときの彼は、物静かで、気遣いもしてくれる
優しい老紳士だった
話せばわかってくれるはず・・・・
いや・・・海藤との約束は、二度と司に逢えない代わりに
助けてやると言う条件だった
善意で手を差し伸べる気があるのなら、条件等出さなかっただろう
あれこれ考えだすと、人間不信に陥りそうだった
フランの首輪に挟んだメモが無くなっていたのに
司の返事も来ない。それが答なのかも知れない
足元にいる、フランが、心配顔で、ずっとつくしを見上げていた
気がつけば、ドル、ユーロ、ポンドまで居る

「ごめんね。何でもないんだよ」

お腹をかばいながらしゃがみ込んだつくしは
順々に4匹の犬の頭を撫でてやった

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間島は、椎名製薬の出入り口から
少し離れた場所で隠れるようにタバコを一服していた
いい年をした中年のオッサンが、やってる事は、中坊と同じ
建物に入れば当然禁煙。ましてやガサイレで咥えタバコなど
もってのほかだ
ヘ○インや、コカ○ンより依存度が高いのがニコチン依存症と
わかっていても、止められない
2本立て続けに火をつけ、スパスパと肺にタールを吸い込んだ

「さてと、行きますか」

グニャリと踵の裏でタバコを消して
携帯灰皿に投げ入れた

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「お疲れさまです」

署員総動員かと思う程の刑事達が、ガサイレをしている
間島も白い手袋をはめるとメンバーに加わった
治験、培養、薬理を合わせ研究棟は4つある
現場に立ち会っている正樹は、終始項垂れて青い顔をしていた
そこまでこないと、しでかした事の重大さに
気がつかないものなのか?
正樹を横目で見ながら、隣接されたオフィスに顔をだした

数人の刑事が、デスクに置かれていたPCを取り囲み
暗号化された文章とメールを復元する作業をしていた
たたき上げでのし上がってきた間島には理解できない分野だった
アナログ人間の間島にしてみれば、パソコンの文字入力すら
悪戦苦闘しているのに
警察も電子情報化に対応せざるを得ない時代になってきたと
ため息が漏れた
これから、正樹と父親で社長の敬一の事情聴取が始まる
間島の仕事はそれだけではない
海藤と司のフィアンセの行方を追わなければならなかった

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自分なら何とか出来ると楓には言ったものの
焦げ付いてる金額があまりにも大きすぎる
世界展開している、メープルは売却して規模を縮小するにしても
そこで働くスタッフを引き続き雇用して貰う交渉もせねばならず
つくしを探し出したいのに、いくら時間があっても足りないのが
今の司の現状だった。壊れそうな心を酒の力で誤魔化すしかなかった
やり切れない気持ちを唯一共有出来るのは広野だった

「何杯目だ?」

Barミスティにやって来た広野が、カウンター席に坐る
司のグラスを取り上げて、ゆらゆらと振った

「まだ3杯目ですよ」

「同じものを」

バーテンダーに告げてから横に坐った

「話があったんじゃないの?」

日々、忙殺されてる司から久しぶりに誘いの連絡が来たのは
椎名の事とは違う何かだろうと思っていた

「協力してもらえませんか」

司が言いたいことは察していた

「出来る限りのことはする。今、色んな所に
 根回ししてるとこだ。どれくらい集まるかはわからないけどね
 焼け石に水かも知れない」

叔父の墓参りであったとき、広野はファンド会社の名刺を
置いて帰った。新たな投資家を集めるには
自分一人では到底無理なこと。広野の人脈に縋る思いもあった

「ただ、今まで通りには行かなくなる」

「わかってます。これまでのワンマン経営で私物化出来ない事は
 業績が好調な事業を売却して解体しても
 最後に残るのは、莫大な不債を抱えたメープルだけです
 従業員の事もありますが、叔父とつくしの為に
 新しい道明寺財閥を築きたい。亡くなった叔父は
 親父達が私物化した財閥をどうにかしたかった
 志半ばで、あんな事になってしまったんです
 出来ることなら社員のリストラも避けたい
 第三者の介入で、再構築出来るのなら、私は喜んで受け入れます
 元々、道明寺とは縁を切るつもりでしたから」

「ハゲタカより、バイアウトで(買収ファンド)
 決着をつけた方がいい」

バイアウトファンドは、投資家から集めた資金で業績不振
や資金難に陥った企業の過半数の株式を取得し、
経営に関与する。そして、その投資先の企業価値を高めた後、
株式売却か上場により投資家に利益を還元する
バイアウトは買収の意味だ
一方、ハゲタカは、短期に企業を解体し
投資リターンを得る。株式でなく債権を銀行から安く買い取り
あらゆる形で債権の回収を図り利益を上げるファンドだ
どちらにしても巨大企業の道明寺財閥のワンマン経営で
ここまで持ち堪えたのが奇跡に思えた

「いつか、美味い酒が呑めるさ!」

気弱になっている司を励ますように
広野が、バシんと背中を叩いていた
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