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鍾愛 122

「おい、なんすんだ!エアコンが利かねぇだろ!」

「だったら間島さんがタバコ消して下さいよ
 スーツがニコチン臭くなるから嫌なんですよ」

道明寺HDに向かうため田中の運転で
覆面パトカーに乗り込んだ間島は、心置きなくタバコが吸えると
火をつけた途端、嫌味ぽく窓を全開にされた

「一日、2箱。セブンスターは1個440円×2で880円
 1ヶ月で27280円。年間、327360円の無駄遣いです」

「わざわざ計算したのか?」

「そうです。躰に悪い毒を買う経費がいくらかかるのか?
 興味があったもんで・・・これを機会に、
 禁煙されてはどうですか?年間32万、5年貯金したら・・・」

「もう、いいよ!黙れ!消しゃぁーいいんだろ」

不機嫌そうな顔をして、間島は、携帯灰皿に投げ込んだ
部下が、上司にこれだけ軽口を叩けるのは、間島の人間性もあるが
仕事のいろはを教え込んでくれた柴崎の影響も大きかった
上司の理不尽な命令に反発していた彼の防波堤となり
かばってくれてたのは柴崎だった
いつか恩返しがしたいと思ってた矢先に柴崎は退職し疎遠になった
この事件がきっかけで、再会し、御法度である
捜査状況も伝えていた

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「凄いビルですね。ここで働いてる社員の平均年収って
 どれくらいなんでしょう・・・
 俺らみたいな薄給じゃぁないんだろうなぁ・・・」

広いエントランスフロアを歩きながら、
田中が小声で下世話な話をする。視線の先の受付嬢が
とびきりの美女だと気づいた田中は
間島を押しのけ、いつもより2割増しのキリリとした表情を作って
警察手帳を見せた
驚いたのは、受付嬢で、見るからに動揺していた

「社長さんにお会いしたいのですが」

役立たずの田中の後ろから間島が声をかけた

「しばらくお待ち頂けますでしょうか?」

慌てて内線電話で連絡をする彼女をもっともらしい顔をして
田中は品定めしていた
さすが大手企業。色々な人物が出入りしている
間島は、彼らの靴音に耳を傾けていた
ある歩き方に特徴があるとはなんなのか?
歩き方の癖で靴音が変わるのは当たり前だが
注意深く聴いてみると確かに違いがある

「間島さん!間島さん!行きますよ!」

田中の呼びかけにやっと気がついた間島は、
案内された重役室直通EVに乗った
浮かれた田中は、どっちがタイプですか?と、
美しい受付嬢の事を間島にふってきた

「わからん」

「俺は右側の子です」

「特徴のある歩き方の原因ってなんだ?」

「はぁ?何ですかそれ?」

話がテレコになっていることに田中もようやく気がついた

「ご苦労様です」

EVの扉が開き出迎えたのは楓の秘書山崎だった

「急にお邪魔して、申し訳ありません」

「我が社にも疑いがかかってるって事ですか?」

唐突に山崎が訊いてきた

「そんな事はありません。一応、お話を訊くってのが
 我々の仕事の初歩でして」

「あのクラブのオーナーは、女性にしてはやり手で
 まさか、裏社会と繋がっているとは知りませんでした」

「オーナーをご存知ですか?」

「ええ、風の噂程度ですが」

必要最低限の事しか話をしない山崎が
珍しく会話のキャッチボールをしていた

「ここに、喫煙するスペースはありますか?」

「ありますよ。ワンフロアに一カ所ずつ自販機の横に
 喫煙ルームを設けてます」

「それは助かります。私はチェーンスモーカーで
 ニコチンが切れると禁断症状が出ちまうんですよ」

そう言と、スーツの内ポケットからタバコを取り出し
手が滑って床に落ちてしまった
拾おうとした山崎を制して、自分で拾うと喫煙ルームに向かった
田中は、先に来客室に案内され、山崎の後ろをついて行った

「フンッ・・・・面白いことになってきたな」

喫煙ルームのビルトイン空気清浄機に向かって
間島は、勢いよくタバコの煙を吐き出していた

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いつものように2本立て続けにタバコを吸ってから
間島も来客室に向かった
すでに、楓と司、西田と山崎が着席していた

「これは失礼。遅くなりました」

頭を掻きながら申し訳なさそうに間島も席についた

「この度は、色々と大変ですなぁ
 ご子息の婚約者の実家の不祥事とあれば
 多大な影響もおありでしょう」

「そうです。あちらから何の連絡も来ておりません」

楓は、淡々と応えた。事実そうで、
一度だけ、椎名の顧問弁護士から連絡があっただけだった

「込み入ったお話になりますが、ご子息との婚約話は
 どうなってますか?」

「破棄に決まっているでしょう
 こちらの顔に泥を塗ったのですから」

「なるほど・・・失礼ですが、婚約された経緯をお訊かせ下さい」

「互いのより良い関係強化の為です」

「ほーう。政略結婚ってやつですか」

司は、口を挟まず黙って聞いていた

「なるほど・・・素人目から見れば畑違いのような気もしますが」

「そんな事はありません。我が社も研究所を持っています
 業務提携すれば優秀な人材確保と施設の充実
 株式の増資によって、研究に必要な資金も得られます」

「新薬の上市予定でもありましたか?」

「これから共同開発するつもりでした」

「この事件をきっかけに私なりに、製薬会社の事を
 ざっとは調べてはみました
 国内企業が世界に先駆けて新薬を開発するのはいまだ難しい
 状況なのに対して、米国では、バイオベンチャーが実用化し、
 ベンチャーを脱して、製薬会社へと成長している
 イノベーションが本格化しています
 日本では、ベンチャー企業より、製薬会社の開発が主流です
 N.Yに本拠地を置く道明寺さんなら、米国のベンチャー企業と
 提携した方が良かったんじゃないですか?
 上市するまでには莫大な投資が必要でしょう
 上市したとしても、薬害問題が出たとしたなら
 信用を落とすことにな成りかねない
 安定したビジネス展開をしておられるのになぜ急に
 業務提携などしようと思われたのか?」

「現実に満足していては足元をすくわれます
 常に先見の目を持って行動をしなくては
 安泰などあり得ません」

「なるほど・・・我々の仕事とは真逆ですなぁ・・・
 私達は、事件を立件するために過去を追う
 過ぎ去って、風化しそうな事件も、追いかける
 人には必ず過去がある
 その過去を紐解くと事実があったりします
 業務提携の話は、どちらからなさいましたか?」

「そこまで詳しくは話す必要があるのですか?」

楓は、間島の見透かしたような物言いに
隠しておきたい事が表沙汰になる様で、
これ以上、話を長引かせたくなかった

「秘書の山崎を通じてです
 国内で上場している製薬会社と業務提携すれば
 投資しても良いと言う話がありましたので」

「個人投資家ですか?」

「お答えするわけにはいきません
 巻き込むとご迷惑をかけることになります
 それに、事件とは関係ありません」

「社長。そろそろお時間です」

絶妙のタイミングで山崎が退席を促してきた

 「この後、予定が入っておりますので失礼致します」

「突然、お邪魔致しまして、申し訳ありませんでした」

間島は、楓と山崎が出て行く後ろ姿を眺めていた

「どうなってる!」

今まで、黙って話を聞いていた司が間髪入れずに
追い打ちをかけてきた
厄介なのは、こっちの方だった
何せ、足取りが全く掴めないのだから
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