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Memory 1

丸の内から永代通りを抜け大手町交差点を右折すると
ビル群に囲まれた日比谷通へと合流した

「珍しく混んでますね」

ハンドルを握る西田がノロノロ運転の理由を伝えてきた

片側4車線ある通りは、永代橋の流がスムーズなら
さほど混雑することもなく
環八通りのとてつもない渋滞に比べたら
イラつく対象にもならなかった

丁度、日比谷公園に差しかかった辺りで
俺は無意識に歩道に目をやった
今時珍しい黒髪をフィッシュボーンに編み込んだ母親と
ピンク色のリボンで、ポニーテールを結わえた娘
友達親子とでも言うのか、幼くないもない娘と
手を繋いで歩く後ろ姿に好意的な感情はこれっぽっちもなく、
馬鹿げた自分の好奇心が、あいつらの顔を見てやれと言っている
渋滞のせいで、なかなかあの親子に近づくことが出来ない
車が、動き出したかと思えば止まりるを繰り返し
ようやく、斜め後ろまで辿り着くと
妙な期待感に、薄ら笑いさえ浮かべていた
こっちは黒塗りのスモークガラスだ。外から中の様子は見えない
昔の俺なら間違いなく風刺した言葉を口に出していただろう
身体をリアシートに預けたまま首だけを動かし外を見た

通り過ぎる時、横顔だった母親の顔が
車の流れとともに正面を向いた。俺は息を呑み
波打つ鼓動が一気に高鳴っていくのを感じていた

「・・・・・牧野」

疎遠になった人間に、どこかでばったり出くわしたら
懐かしさで過去の出来事を曖昧にしてくれる事がある

忘れたはずだった
心のメモリーカードを全て消去して、
フォーマットされた俺の心は
新しい記憶が書き込まれて行くはずだった
なのに、何の前触れもなく突然訪れた再会に
怒りや、憎しみ、哀しみや、後悔が一気に復元されて行った

「今、何時だと思ってんだ。こっちは夜中の2時なんだよ
 日本とN.Yじゃ13時間の時差があるつってんだろ
 いい加減、覚えろよ」

「ごめん・・・」

高校卒業を待たずに、俺は、ニューヨーク在住の
両親の元へ旅立った
いつでもいい。電話して来いよ
そう言ったのは俺の方なのに
大学に通いながら武者修行とは名ばかりで
感情的でイロジカルな思考を植え付けてくる母親と
容赦ない目の前の現実に
自意識過剰だったハタチの俺は
虚無感しか覚えず辛い日々が続いた

牧野なら、わかってくれる
牧野なら、吐いてしまった暴言も聞き流してくれる
牧野なら、何度でも俺を愛してくれる
牧野なら・・・・牧野なら・・・・・

「やってらんねぇ。おまえちっとも俺の気持ちなんて
 わかってねぇじゃん。どんだけ必死な思いしてるか
 全部、おまえの為だろ」

あれだけ待ち遠しいかった牧野の電話が
疎ましくなってきていた
持って行き場のない苛立ちを牧野にぶつけ
とんでもなく嫌な奴に成り下がって行くのを
自分でもわかってた。あいつが俺から離れる訳がない
根拠のない自信が、その態度を増長させ
モラハラ男へと変貌して行く俺の事を
あいつは、どう思っていたのだろう

「別れよう。どうせ上手くいきっこないんだから」

牧野からクリスマスプレゼントが届いた事も知らず
かかってきた電話で思いやりの欠片もない言葉で俺は、
牧野を遠ざけた
あいつは何も言わず、ただ黙って聞いていた
2年近くの遠恋は、呆気なく幕を閉じ
今まで、お互い傍に居なかったのだから
時が立てば忘れられると思っていた
眠い。とにかく眠りたい・・・何も考えずに・・・
別れを告げる電話を切った後、何処かに引き摺られるように
深い眠りにおちた

起きなければ。毎日、決まった時間に鳴り響くアラームが
煩くてたまらない。寝起きは決していい方ではないが
今朝は、いつもより増して身体が重くて起き上がることすら
出来なかった
そうだ、牧野の声を聴いたら・・・・
ベッドサイドに置いてある携帯を取ろうとした瞬間
バランスを崩して床に叩きつけられてしまった

「携帯・・・どこだにあんだ・・・牧野・・・」

目が覚めたら病院のベッドの上だった
身も心も根をあげている
しばらくはカウンセリングを受けてゆっくり過ごすこと
ドクターの言葉だけが耳に残った

============
別れてから3年ほどたった頃
幼馴染みから、牧野が結婚した事を訊いた
良かった幸せになって。心にもない言葉を吐いていた
いつまでも、牧野に執着していると思われるのはしゃくだ
そうだ、俺も結婚すればいい
派手な披露宴を挙げて、これ見よがしに見せつけてやる
当てつけ婚だ
ショボい男とくっつきやがって。俺と別れたことを後悔させてやる
あの時の俺は、どうかしてた
好きでもない女と婚約して、その女がとんでもない食わせ者
俺と同時進行で、男がいた。二股ってやつだ
俺からプロポーズを受けるまでの安全パイの男だったらしい
結納が済んだ途端、女の妊娠が発覚
俺の子だと縋りついてきたが、そんな訳はない
殺精子剤の避妊用フィルムを女の体内にぶっ込んで
ゴムを装置し、やった後は、目の前でアフターピルも
飲ませていた
そこまでして俺の子だとぬけぬけとすかす
妊娠7~8週ぐらいから母親の血液でDNAが確認できる
鑑定を受けろと言った途端、あっさり托卵(たくらん)を
認め破談となった

あいつと別れて、俺のツキは完全に終わったのではないか
未練なく去って行った牧野を許せない気持ちと
いつまでたっても俺の心の中に居座るあいつを
10年かけて消していったのに・・・どうして今になって

カチカチと鳴るウインカーのシグナルで俺は我に返った
車の流れを読みながら西田が車線変更を繰り返し一気に
右折レーンまで来ていた

「何か気になるものでもありましたか?」

何度も後ろを気にする俺に、西田がミラー越しに
視線を送ってきた

「10年前とは変わったと思ってよ」

変わったのは俺と牧野だった


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鍾愛は、頑張って夜更新予定です(多分
宜しければお付き合い下さいませ
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  • Ranmaru*
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お誕生日おめでとうございます!

s********o様

こんちには
コメント頂き、ありがとうございます
娘っ子ちゃん、お誕生日おめでとうございます🎁
若いって素敵!
私もその頃に戻って人生をやり直したい!
安室ちゃんの引退は残念だけど潔さを感じます
切ないスタートですが、また方向転換します
最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!







💕

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