50年目のラブレター 戦い 76

汽車の長旅で、ようやく横須賀に到着した司達は
同じ港町でも、横須賀の方が緊張感のある空気を感じていた
住まいは、佐世保と同じような
小さな一軒家を借り
新しい住まいの準備は、つくしの両親が色々と手配してくれ
到着した日には、布団で眠ることが出来た
優司も長旅で疲れ、夜泣きせず眠り
翌日から、勤務が始まる司も早めに床につき
つくしは、荷物の片づけをしてから眠りについた

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横須賀での司の任務は航海士
操舵するのは、下士官の役目で、
司のような将校は、舵取りする事は無かった

航海士は、航海や光学信号のみならず、
遠洋航海に必要な天文観測
安全航行に欠かせない気象観測や潮流・潮汐の観測
さらには敵地強行測量などは専門の技術が必要で
陸地の見えない外洋で天体を観測することで
船舶や航空機の位置を特定して指示を出すのが主な任務だった


海軍に転勤が多いのは、色々な艦に乗り将来の司令官としての
人材養成のためで
また戦艦の命名には決められたルールがあり

戦艦   (昔の日本の国名) 武蔵、大和、伊勢、日向、摂津
巡洋戦艦 (山の名) 赤城、鞍馬、高千穂、金剛、比叡
航空母艦 (鳥や龍に関係する名 )赤城、瑞鳳

     正規空母は龍や鶴がつく名 
     飛龍、翔鶴
重巡洋艦 (山の名) 妙高、愛宕、摩耶
軽巡洋艦 (川の名 )北上、阿武隈
一等駆逐艦 (天象、気象、海洋関する名)
      雪風、吹雪、初春、朝霧、陽炎
二等駆逐艦 (草や木の名 )桜、竹、朝顔
輸送艦  (海峡名 )襟裳、鶴見、鳴門 等で

戦艦大和程の大きな艦になると、
約3000人が乗船し、ひとつの街にのようだった
大所帯の食事は、主計科が受け持ち
メシタキ兵と呼ばれ、戦闘中も戦いには行かず
ひたすら、飯を作り続ける
その他に、庶務、会計、被服、給料等も担っていた

艦内は、米麦倉庫だけで8カ所あり
パン、肉、魚肉、野菜、缶詰、漬物、醤油庫などのスペースや
食肉庫は冷凍庫になっていて、マイナス5度まで冷やすことができ
3ヶ月程の戦いに耐えうる食糧を常備
「ラムネ製造室」もあり、日に5000本程度を供給していた
潮飛沫をかぶるような任務はのどの渇きを訴える兵が多く、
対策としては甘い飲み物が良いということで、
陸軍でも水際戦闘では水筒用砂糖が支給され
中期まではほとんどの部隊が、ラムネ製造機を持っていた


艦内の食事は、水兵、下士官は、大部屋で交代でとり
司達、士官は、ガンルーム(第一士官次室)と呼ばれる部屋で摂る
食事内容も、水兵や下士官とは違い豪華だった

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ガンルームとは、イギリス軍の流れを汲み
元は戦闘態勢に陥った時、すぐ配置につけるよう
大砲の近くで眠る部屋をガンルームと呼んでいた事に由来する
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横須賀鎮守府は、佐世保より軍事色が濃く感じられ
空を見上げると、零戦が飛んでいる
総二郎とあきらの事を思い出しながら
もし会える事があったなら、陸ではなく海の上だろうと思っていた

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最初に空母(航空母艦)を作ったのはフランス だが
英国、フランスは、巡洋艦を改造して空母を造り
日本は、英国より技術導入し、いちから空母を造り上げた
世界で初めて航空母艦を完成させたのは日本だった

真珠湾で開戦し、
ミッドウェー海戦、第二ソロモン海戦、南太平洋海戦
アリアナ沖海戦、レイテイ沖海戦と空母は戦いを繰り広げ
歴史上、空母VS空母で戦ったのは日本と米軍だけで
レイテイ沖の海戦で帝国海軍の空母は全滅する事となる
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50年目のラブレター 75 それぞれの想い

総二郎は、偵察機ではなく、九六式陸上攻撃機に乗り飛び立つ
相手の偵察機は、物凄い勢いで迫る
総二郎の巧みなテクニックにあっさり退散した
旋回しながら、かつて練習機を破壊し、同期から

「お前は、横空には行けん」と言う言葉を思い出していた

研究と教育を主にした横須賀航空隊の教官など
柄ではないと思っていたが、
司とつくしに優司がいる横須賀に行けることが出来たら・・
女々しいと思いつつ、微かな希望も抱いていた

着陸し、「なぜ撃ち落とさなかったのですか」と
部下に聞かれ「一戦交える程の相手でもなかろう」と返したが
実は、一瞬、隙ができ、タイミングを逃していた
司達の事が頭をよぎった・・・
こんな事では、自分は、あっさりあの世行きになってしまう
ため息をつくと、攻撃機を降りた

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「つくし・・・つくし・・・・」

司の呼ぶ声にハッとして顔を見た

「俺が優司を見ててやるから少し寝ろ」

汽車に乗り、車窓から外を見つめるつくしに声をかけても
返事がかえってこず何度目かで、ようやく気がついた
司は、つくしがこれから先の事を不安に感じていることも
わかっていた 
今までは、支えてくれる皆がいて、佐世保より実家が近い
横須賀でも知らぬ土地に変わりはない
つくしが、勘当されたのは形だけであり、
母とは手紙のやり取りをし
近況を知らせ、優司が生まれた事も報告していた

「しばらく墨田の実家へ帰れ・・・」
つくしを気遣い、司が言ったが
「私には帰る家などありません」
「司さんと一緒に暮らす家が私の家です」と言い
聞き入れなかった
気が滅入ってしまったかも知れない車中で
優司は、機嫌が良く、乗り合わせた客から
「きれいな赤ちゃんですね」と度々、声をかけられていた
司似にて、身体が大きく、赤ん坊にしては顔立ちが整い
柔らかな癖毛と端整な顔立ちは、司に生き写しで
そんな、優司の事が、つくしの自慢でもあった

「バブゥ・・・」「ケタケタケタケタ・・」「ホゥ・・」

優司が、色々な表情を見せる
つくしの膝の上にいた優司を司が、自分の大きな膝に乗せると

「おい・・優司、早くお父さんと呼でくれ」
「俺はお前と違って短気でせっかちだ・・・」
「早く喋れる様になれ!」「お前と色々、話がしてみたい」

司は、まだ言葉が理解できない息子に
色々な話を聞かせて
時には恥ずかしくなるような、つくしに対しての愛の言葉も
優司に話し掛けるように呟いていた

「父さんはな、母さんに一目惚れしたんだ」
「今も、これから先も、母さんが一番、お前は二番目だ」

今は良いけど、言葉がわかるようになれば言わないようにと
つくしから釘をさされる事も度々で「何で?」と
司が真顔でしつこく聞き返してくる

「私も、優司も一番と言って下さい
 二番目なんて言ったら優司が傷つきます」

「本心を言ったまでだ・・・」「お前が一番なのは変わりはない」

そんなやり取りを佐世保では日常的に重ねていた
出世街道を歩む為に、猛勉強して、海軍大学に入りたい
司は、そう思っていた そのためには、
海軍兵学校の卒業生が士官任官後、
10年程度の実務経験を経た中から選抜される
受験資格は兵学校での教育を受けた中堅将校である大尉・少佐であることが基本で、
入校者は海軍兵学校の卒業席次(成績)が高いものが多かったが、
席次が低くても本人の努力次第で入校することができた

海軍大学校を卒業することは、
海軍の官僚組織で出世するための重要な条件の一つではあったが、
陸軍の「天保銭組」(陸軍大学校卒業生の通称)のように
大学校卒業が軍の中枢ポストに昇進するために必須に近いものとされていたわけではなく、
大学校における成績も陸軍ほどには重視されていなかった

大学校を卒業せず、艦隊勤務など実施部隊を多く経験した
叩き上げの士官で高位昇官を果たした例も少なくない

大学入校の目的は、つくしと優司を守ることにある
安定した生活を確保する為には、揺るぎない地位が欲しかった
名誉欲の為の出世ではなく、守る為の地位を手に入れたかったのだ
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50年目のラブレター 74 それぞれの想い

司達は、横須賀へ赴任するため、
朝早く、佐世保を出発する事になっていた
つくしは、思い入れのある我が家を順番に見て回り
二階にある司の寝室兼書斎は使われることもなく
いつも過ごすのは、茶の間か、横にある寝室代わりの和室だけ
越してきた頃、総二郎とあきらが休みの度に入り浸り
司をイラつかせた事や、何かと託けては集まり
食事や酒を共にし、笑い声が絶えなかった
そんな思い出の詰まった家を今日、出て行く


「つくし、そろそろ行くぞ」

司の声に「はーーい」と返事をした後
正座して、「お世話になりました」と礼を言い
優司を抱っこして、玄関で待っていた司に
おんぶ紐で優司を背負わせて貰い、荷物を持つと
二人して、住み慣れた我が家に頭を下げ駅へと向かった

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総二郎とあきらは任務がある為、見送りには来れず
タマとゆき乃には、別れが辛いから
見送りには来ないで欲しいと伝えていた

「坊ちゃん、つくしちゃん!」

人が行き交う駅で、聞き覚えのある声に振り向いた

「タマさん・・・幸ちゃん・・・」
「来てくれたんですね」

つくしは嬉しそうに駆け寄るとふたりの手を握りしめていた

「当たり前じゃないですか」

「坊ちゃん、つくしちゃんと優ちゃんの事
 くれぐれもお願いしますよ」

「タマ、俺は、もう人の親だ言われなくともわかってる」

司は、苦虫をかみつぶしたような顔をして、そっぽを向くと
タマの小言に似た言葉に照れくささを隠し悪態をつく

「司さん、つくしさん、お身体に気をつけて・・」

「ありがとう・・・幸ちゃん、結婚が決まったら教えてね」
「落ち着いたら、みんなで遊びにいらして下さい」

つくしは、あの日泣きじゃくっていた総二郎の事が気にかかり
タマに様子を聞きたかったが、
傍に居る司が不快に感じるかも知れないと思い聞けずにいた

「タマ・・・・総二郎の事、宜しく頼む」

司は、いつになく真剣な顔をして深々と頭を下げた

「坊ちゃん・・・ありがとうございます・・」
「大丈夫・・・みんながついてます・・」

タマが涙を堪え言葉に詰まりながら礼を言う
司が総二郎のことを心から心配している事が伝わって来た
18の時から、苦楽を共にしてきたかけがえのない親友
総二郎は、初めて、心を許せる友だった、
出来ることなら戦友としてでなく親友として生涯付き合いたい
そう思っていたのに、時代は、
それさえも許してくれない状況下になってゆく
大人たちの切ない話に、つくしに背負われた優司は
人が行き交う駅が気に入ったのか、目をまん丸にしたり
ケタケタと赤ん坊特有の笑い声を上げると手足をバタつかせていた

「おやおや、ここは、そんなにおもちろいでちゅか?」

赤ちゃん言葉で語りかけるタマに、
司達も、ようやく笑みがこぼれた

「ポォォォォー」

乗車を促す汽笛が鳴り響く
この駅に帰って来る人もいれば、出て行く人も居る
再会を喜ぶ人もいれば、別れを悲しむ人も居る
司とつくしにとって汽笛の音は、いつも哀しい別れがあった

司は、一瞬下を向き唇を噛み締めると顔を上げ

「タマ、幸ちゃん、行って参ります」
その言葉には色々な意味が込められている事がわかり

たまらなくなった幸子が

「大きくなった優司くんを連れて
 お帰りになるのを待っています・・・」

「この街は気に入ってる・・・」
「必ず帰って来る・・・・・・」
「総二郎とあきらに宜しくな・・・」

互いの手を握りあい、別れを惜しんだ

「ポォォォォー」

汽笛と共に、ゆっくりと汽車がホームを出て行く
窓を開け、懸命に手を振る司とつくしの姿が
見えなくなるまで見送っていた

「もう出たか・・・・」

総二郎がポケットから、懐中時計を取り出し時間を確認する
一緒に1枚の写真を手にしていた
司が、西門家の離れに居候してた頃
近所の氏神様で秋祭りがあり、浴衣を着て出かけ
帰り道に、写真館に立ち寄り三人一緒に写真を撮った
その写真は、何より大切な総二郎の宝物となり
ポケットに入れ持ち歩いていた


「西門中尉」部下の呼ぶ声で顔を上げた

司、総二郎、あきらは揃って中尉に任官
小隊長として、部下も率いていた

「今、行く・・・」そう言うと、
空を見上げた、米軍の偵察機が飛来している

「来たな・・・」
「俺様を誰だと思ってる・・・」ニャリと笑い

航空帽と眼鏡を装備すると、滑走路に向かいかけだしていた にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
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50年目のラブレター 番外編 父と息子


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父 司 24歳  息子 優司 4ヶ月



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イラスト提供 すてらさん
ありがとう!

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拍手コメントお礼

HNさま

父、司に癒されて下さいませ!

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50年目のラブレター 73 それぞれの想い

司は、帰宅すると、真っ先に優司の顔を見に行き
慣れない手つきで抱くと、しばらく無言で
愛おしげに見つめるのが日課となっていた

夜泣きで司がゆっくり眠れないから
寝室を別にしたいとつくしが言うと
優司の傍に居たいから一緒の部屋で良い
泣き声は、俺の子守唄代わりだと言い
つくしは、司のそうした行動が、
心の中に全てを焼き付けているようでならなかった

決して言葉に出してはならない・・・
言霊は、魂を吹き込まれ現実の物となる
祖父と約束したように、何があっても司に従い支え
運命を共にする
それが自分の生きる道なのだと思っていた

噂通り、司は横須賀鎮守府への移動が決まり
司宅には、あきらが住むことになった
つくしが出産したばかりだからと送別会は開かないつもりだったが
つくしたっての希望で、優司の顔見せがてら
総二郎、タマ、あきら、ゆき乃が司宅に集まっていた
話の話題は優司で、皆が代わる代わる抱っこし

「抱き方が悪い」「落としたら承知しねぇぞ!」

と、司が口うるさく、あれこれ言い
ゆき乃は、優司をあやしながら、
自分にも、いつかこんな日が来れば良いのに・・・と
想いを巡らせていた
あきらは、女将に結婚の許しを貰いに行き、
ゆき乃との将来が見え始めていた
いずれ自分も父親になれる日が来る・・・
ゆき乃と同じ様に父親になった自分の姿を重ね合わせていた

総二郎は、あきら達とは違う感情で優司を思い
毎日、行きては、俺の顔を見て笑ったと喜び
自分が父親になる事は、一生ない、
出来ることなら、優司が成長する姿を見てみいと思っていた
小さな赤ん坊の存在が、暗く行き先が見えない日々を
明るくさせ、生きる源となる
それぞれが、色々な想いを抱きながら人生の分岐点に来ていた

総二郎は、明るく振る舞っていたが
心の中は、つくしとの別れで心が張り裂けそうで
もう二度とつくしに会える事はない・・・と思っていた
初めて出逢った時、親さえ気づく事がなかった
腕にある小さな火傷の痕をみつけ、心を痛めてくれた
司を通して、つくしを想い、欠けて、粉々になりそうだたった
心を、優しく包み込み癒してくれたのは、つくしだった
例え想いが叶わなくとも、彼女の存在は生きる希望でもあり
「好きだと」告げられる事が出来たら、どんなに気持ちが
楽になるのだろうと思っていた

小さな優司も居るからと、送別会は、早い時間に
お開きとなり、司夫妻が、皆を外まで見送る

「ちょっと待ってて下さい・・・」
つくしが急いで、家の中に入ると何やら手にして戻って来た
総二郎が、つくしに視線をやると
「首元が寒そうだから・・・」と手に持っていた
自分のマフラーを、総二郎の襟に、そっと巻き、
あの時と同じように、包み込む様な優しい笑顔を見せた

「うぅぅぅぅぅ・・・」総二郎の頬に

堪えていた涙が、一筋流れ落ちる

「司・・・・すまん・・・」そう言うと

総二郎が力いっぱい、つくしを抱きしめた
驚いたつくしは、泣く総二郎の大きな背中に手を回すと
子供をあやす様に無言で優しくさする

「総二郎さん・・・どうかご無事で・・・」
「身体に気をつけて、無理なさらないようにして下さい」


つくしを抱きしめる総二郎が
「私の心はいつも貴女と共にあります」
口に出して言えぬ言葉を心の中で呟く
やっと伝えられた、長い間閉じこめた気持ち

「総二郎・・・・」

なぜ、彼が、家へ帰れとムキになったのか
司は、ようやく理解出来た

涙で潤む瞳で、総二郎は、真っ直ぐつくしを見つめ
つくしが巻いてくれたマフラーに手をかけると、

「つくしちゃん・・・ありがとう」と礼を言い

つくしは首を左右に振り、涙がこぼれ落ちていた
泣いたら今生の別れになってしまう
つくしは、涙を拭うと、とびきりの笑顔で

「総二郎さん、また優司と一緒に遊んでやって下さい」

つくしの言葉に、総二郎も笑顔を見せ

「うん・・・」と頷いた

「約束ですよ・・・」「きっと・・・」

また、こうして皆で逢える・・・
つくしは、そう信じていた



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拍手コメントお礼

Diphylleia grayiさま

初めまして!拍手コメント頂き、ありがとうございました
当たり前の事が、当たり前でない時代に生きてきた人達の
お陰で今の平和な暮らしがある
忘れてしまいがちですが、忘れてはならない
色々なエピソードを読むと身につまされてしまいます
長いおはなしになりますが、お付き合い頂けたら幸いですm(_ _)m


チムチムさま

ありがとうございます!
ボチボチ更新ですが、頑張ります!
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