50年目のラブレター 19 決意

8月某日
全国各地に設けられた試験場へと向かう
本当なら、兵学校より、機械術、整備技術を中心とした
機械工学、科学技術、設計等のメカニズムを学ぶ
海軍機関学校の方が、司の得意分野だが
兵学校の方が早く昇進出来るのではと思い
敢えて、兵学校を選んだ

試験は、5日間連続で実施
英語、数学、物理化学、国語漢文、日本史、作文の順に行われ
午前中に試験を受け、夕方に発表見に行き合格した者だけ
翌日の試験を受験出来る、ふるい落とし形式で
最終試験日まで行けば、
電報にて、合否の連絡が届く事になっていた

試験会場には、選りすぐりの秀才達が集まり
合格すれば、軍人を生業とする職業軍人として
エリート将校の道が約束されていた
この中で何人合格するのか?
みな、強い意志、目的を持って挑んでいる
試験が開始され、思っていた通りの難しい問題に
全神経を集中させた
試験が終わり、ヘトヘトになった司は、必ず受かる手応えを感じていた


試験の朝早く、つくしに会いにゆき

「これを持っていって下さい」と
つくしが大切にしている、お守りと白米の握り飯を手渡してくれた
彼の大きな身体に見合う握り飯
配給制になり、自分や家族が腹いっぱい食べられないと言うのに
小さな手で、大きな握り飯を作ってくれたのかと思うと切なくなった

「司は、一生懸命頑張って参ります」
姿勢を正し、つくしに向かって敬礼した

つくしも
「ご健闘をお祈りしております」と司に向かって敬礼を返した

つくしは、司の姿が見えなくなるまで見送り
彼は何度も振り向き、つくしに手を振った

試験が終わり、大きな木の木陰を見つけると腰を下ろし
つくしが持たせてくれた、握り飯を食べていた

「いいもの食ってるな」と声をかけてきたのは
のちに同期生となる西門総二郎だった
司は、総二郎の言葉を無視して、食べ続けていたが
その視線が気になり、無言で、二つあった握り飯の一つを
彼に差し出した

「食べていいのか?」

「そんなに見られたら、やらずにはおけないだろ」

「そうだな、すまない」

せっかく、つくしが自分の為に作ってくれたのに
この男は何と図々しいのか・・・と呆れていた

「お前も試験受けに来たんだろ?」総二郎の言葉に

「そうだよ、でないとこんなとこに用はねぇよ」

「そうだよな・・・・」

それ以上会話することもなく、夕方の合格発表を
ふたりで見に行き、

「おい!あったぞぉ!合格だ!」と肩を叩き共に喜びあった

帰り道、方向が同じだということで司と総二郎は一緒に帰り

「また明日・・・」と挨拶を交わし別れた

日も暮れかけ、どうしようか迷ったが、司は合格したことを
つくしに伝えたくて、邸には真っ直ぐ帰らず
つくしの家がある駅で降りた
そこには、司の帰りを待ち、自分を探すつくしの姿があって
嬉しくなり駆け寄った

「ただいま・・・・」

「お帰りなさい・・ご苦労さまでした」「どうでしたか?」

「ああ、受かってたよ」

「おめでとうございます」

嬉しそうな顔をするつくしの笑顔を見て、
明日も、頑張れる・・・そう思っていた

「お疲れでしょうから、今日は早めに休んで下さいね」

翌日の試験の勉強もしなくてはならず、名残惜しいが
短い会話を交わしただけで、つくしと別れた

邸に戻るとタマが

「こんな遅い時間まで、どこに行ってらしたのですか?」

「すまない、外で勉学してた」
「腹減った・・・・・・・・」

「はいはい、支度してあります、先にお風呂に入って
 すっきりしてらっしゃいまし」
「坊ちゃんの大好きな、オムレツをこしらえますから」

「ありがとう・・・・」

タマは、司の様子がおかしいと気がついていたが
根掘り葉掘り聞いて、機嫌を損ねると
本当のことを言わないと思い、黙っていた


=======*=========*====
HNさま、いつも拍手コメント頂き、ありがとうございますm(_ _)m
じわじわ切なさアップするような・・・しないような・・・・
そんな感じです

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50年目のラブレター 18 決意


復学する為、遅れてる学力を取り戻したいから
家庭教師を探して欲しいとタマに頼んだ
元々、司の学力は優秀で、休学中も、
たいしてやることもなく、暇つぶしに独学していた
海軍兵学校願書を送付して貰い、
上半身裸の写真と一緒に送りかえし
両親にこの事が耳に入ると大変な事になる
幸い父親は妾宅に入り浸で邸には寄りつかず
母親も、別荘で過ごしている
自分に無関心だった両親を腹立たしく感じていたのに
この時ばかりは、そんな両親で良かったと思えた

問題があるとしたらタマだ・・・・
タマに嘘は通用しない、いつかバレる時が来る
自分の御方になってくれるのか?そうでないのか?
司は、わからなかった

日中戦争が長期化し世は物資不足となり
米や醤油等の食料品も徐々に配給制になり、

「贅沢は敵だ!」
「欲しがりません勝つまでは!」のスローガンが掲げられ
中には
「何がなんでもカボチャを作れ!」と食糧確保の為の
スローガンが大真面目に掲げられ
つくしも軍需工場で無給でかり出される勤労奉仕にゆき
これから日本はどうなるのか?
司が海軍兵学校に合格すれば、戦地に赴く可能性が高くなると
気に病んでいた

道明寺家は、東京を離れた場所に田畑も所有していたため
ある程度の食糧確保も出来ていた
つくしに、玄米や野菜を届けてやりたくても
タマに見つかると、海軍兵学校の事も知られてしまうかも知れず
司とつくしは思うように逢えない分、偽名を使い
手紙のやり取りで連絡を取り合っていた

今年の受験を逃せば1年後になってしまう
失敗は許されない、何が何でも合格しなければならないと
司は、これ程、勉学に励むことはなかったという言うくらい
寝る間も惜しんで勉強した

タマは、司の変貌ぶりに、何かあると思っていたが
あの日以来、つくしのことを言わなくなり
つくしを忘れる為に勉学に打ち込んでいるのか?
他に何か理由があるのかわからずにいた

見合いすると言っていた、つくしも
司の訪問で、立ち消えとなり、
祖父も、タマ同様、若い二人の事が気になりつつ
これと言って変わったこともないようなので様子をみていた
母の千恵子は、突然頻繁に来るようになった
つくし宛ての手紙が偽名を使った司からの物だと気がついていたが
見て見ぬ振りをしていた

司は、全国各地に設けられた海軍兵学校の身体検査に行くため

タマに、「息抜きに出かけてくる」とだけ告げ外出した

身体検査は、家族の人数、健康状態、自己の体歴、
身長、体重、視力検査、肺活量測定等、多岐に渡った
身体検査の帰り道、予め手紙で連絡を取り合っていた場所で
つくしと落ち合った

「何もしてやれなくて、すまない・・・」
久しぶりに逢った司が、開口一番で謝ってきた

配給制となり食糧物資が制限される中、
つくしに米や野菜を届けたくても、届けてやれないことの詫びだった

「ううん・・・大丈夫です心配しないで下さい」
「お手紙が届くだけで、嬉しくてお腹いっぱいになります」
「司さんから来たお手紙の文字をむしゃむしゃ食べたら
 心もお腹もいっぱいになるから・・・・」

司を笑わせるつもりで言ったのに
彼は、顔を曇らせた

「ラムネ飲むか?」
「冷えてねぇけどな・・・・」
「買ってきたんだ・・・・・」

司は、とくに小遣いが決まっておらず、欲しい物があれば
タマにお金を貰って自分で買うか、使用人が買い揃えていた
これと言って不自由したことが無かったため、そうしてきたが
受験に必要な物や交通費、宿代もいずれ必要になると思い
何かと理由をつけてはタマから小遣いを貰い
そのお金を少しずつ貯めていた

あの時、つくしが買ってきてくれたラムネが、彼女にとっては
貴重なお金であり、2本買えず1本だけ買い自分は飲まずに
司に持ってきてくれたのだと気がついた

司が手渡したラムネを中々飲まないつくしに

「飲まないのか?」と司が聞けば

「司さんが買ってきてくれたから勿体なくて・・・」
「宝物にします!」

ニコニコと嬉しそうに笑うつくしを見て
幸せにしてやりたい・・・と思った

「じゃ、半分ずつしよう」司の言葉に
つくしは、ぽっと頬を赤く染めた
無防備で純心すぎる二人の恋は、
周りが思う以上に強い絆で結ばれていた


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50年目のラブレター 17 決意

つくしは、司の大人びた感情に、あらぬ方向に
暴走するのではと不安になりつつ、
自分のせいで、彼の将来が苦難に満ちたものになるとわかっていた
今まで、何不自由なく暮らしていた司が
海軍兵学校に合格すれば、慣れぬ共同生活を送り
厳しい訓練が待ち受け、戦地へと出陣命令が下るかも知れない
ならば、結婚出来なくとも、彼が生きてさえいれば
その想いだけで自分は前を向いて歩いて行ける
死んでしまえば無になり、いずれ面影すら消えてしまうのではないか

信じて待つと言ったものの、
司ひとりが何もかも背負うことになる心苦しさと
結婚し、夫婦となり子供を産み彼と一緒なら
どんなに幸せだろうかと言う思いも捨てきれず
これで良かったのかと心の中で自問自答を繰り返していた

======*=======*=======
司は邸まで汽車で帰ると言い
つくしは駅まで見送り別れ際に

「戦地に行くくらいなら、結婚出来なくてもいい」
「貴方には、生きていて欲しい・・・・」
「何があっても・・・生きていて欲しい・・・」
大きな目に涙をいっぱい溜め、司のシャツを握りしめながら

「お願いだから、海軍兵学校には行かないで・・・」
「お願いだから・・・行かないで・・・お願い・・行かないで」

司は、何と答えて良いのかわからず、つくしの号泣ぶりに
行き交う人に、ジロジロみられ、つくしひとり残して
列車にも乗れず、駅の近くの公園で、
つくしの気持ちが落ち着くのを待った

つくしは長い間泣き続け、司は無言でつくしの手を握り
背中を擦ってやるしかなかった

「帰りが遅いと心配すっから・・・」
「家まで送ってってやる・・・一緒に帰ろう」

コクリと頷くつくしの泣き顔を見て、自分の無力さを感じた
偉そうな事を言っても、つくしの涙さえ渇かしてやる事も出来ない
連れて逃げる事も出来ない
今の自分に出来ることは海軍兵学校へ入るか、
つくしとの幸せを諦めるかなのだ
諦められたら、端っからこんな事はしない
この選択は、決して後悔することはないだろうと
司は、思っていた

=====*=======*======

帰りが遅くなったつくしの家族に
一言、お詫びがしたいと司が言ったが

「私が悪いんだから、謝らないで欲しい・・・」
「もう大丈夫、ごめんなさい」と消え入りそうな声で呟いた
司は、つくしを家の近くまで送り、彼女が中に入って行くのを
見届けてから、帰路についた

邸では、司の帰宅が遅く、ラムネのこともあり
タマは、二人して心中するのではないかと気が気ではなかった

「お帰りなさいませ」

玄関で使用人の声を聞き、タマは小走りで出迎えに行った

「ご無事でしたか・・・心配したんですよ」

「何がだ・・・・」

「坊ちゃんが、ここへ二度と帰って来ないかと思いました」
タマの顔を見て、本気で心配していたのだとわかった司は

「さっきは、怒鳴って、すまなかった」と素直に謝った

「坊ちゃん、急に大人にならないで下さいまし・・・」
「タマは、わがままで子ども見たいな坊ちゃんが好きでございます」

タマは、司から何かを感じ取っていた
幼い頃から乳母として育て、実母の楓以上に司の繊細な変化も
気がつくほどだった

「夕飯の支度が出来ておりますよ・・・」

「今日は疲れたから、もう休む」

「そうですか・・・・」

「ああ、そうだ、そろそろ復学しようと思ってる」
「勉強を見てくれる人を探しておいてくれ」

「おやすみ」それだけ言うと司は、自室に入って行った
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50年目のラブレター 16 決意

久しぶりに逢う二人は、会話もなく
司が歩く半歩後ろをつくしがついてゆき
人気のない川べりに腰を下ろした
司は何も言わず、夏の日差しでキラキラ光る水面を見つめ
つくしは、そんな司の儚げな横顔をちらりと見ると
同じように水面をみつめた

「つくし・・・・」

「はい・・・・・」

「聞いておきたいことがある」
「今の俺は、まだ学生で、お前を幸せにする術がない」
「だが、これから先、幸せにすると約束する」
「俺を信じて待つことが出来るか?」

つくしの方に向き直ると、真剣な眼差しで問いかけてきた

「はい・・・・」

「俺は勉強して海軍兵学校の試験を受けるつもりだ」
「合格すれば勉強しながら給料が貰える
 その金をお前に送るから、貯めておいてくれ金が貯まったら
 小さな家でも借りて一緒に暮らそう・・・」

海軍兵学校とは、将校(士官)を養成するする教育機関で
帝国大学(東大)より入るのが難しいと言われていた
受験資格は16~19歳で身体条件も満たし、
中学第四学年程度の学力、独身者で犯罪歴がない者

身体検査、運動機能検査、5日間連続で行われる学術試験があり
試験内容は、数学、英語(和訳、英文、文法)
歴史、物理、科学、国語の順に行われ即日、合否が発表され
合格点に達し者だけが次の学術試験を受験でき
その後、面接試験により最終合格者が決められた
海軍兵学校を卒業と同時に少尉と言う階級を与えられ
日本海軍の人事政策で兵学校出身者は特別な事情がない限り
大佐にまで昇進できた

つくしは、司を忘れるため顔も知らない相手と
結婚しようと思っていたと言うのに、司は、自分の事を
そこまで真剣に考えていてくれた事が嬉しくもあり、戸惑いもあった

「司さん、兵学校に入れば戦地に行くことになるのですか?」
不安そうに司に聞いてくるつくしに

「お前は何も心配するな・・」と目を細めて優しく笑いかけた


戦火が激しくなれば、いずれ自分も戦場に
駆り出されることになる事は司も承知のうえだった
だが、それをつくしに話せば必ず反対する
つくしと結婚するためには、職を得て金銭を稼がねばならず
兵学校にさえ入れれば、周りの反対があっても
生きる糧がある分、自分の意志が貫ける そう考えていた

「合格すれば俺は江田島にある寮に入らねばならない
 しばらく逢えないが信じて待っていてくれるか?」

「はい・・・・」司の真摯な想いに涙がこぼれ
その涙をあの時のように長い人差し指と中指で優しく拭ってくれた

「泣くな・・・俺はお前を必ず幸せにするから」

司は泣き顔のつくしの唇を指でそっと触れると、
優しい口づけをしてた後、小さな身体を力いっぱい抱きしめた

「つくし、俺は今日で道明寺の名前は捨てた」
「だから・・・何も気にするな・・・わかったな・・・」

司の腕の中で、つくしは無言で頷いた
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50年目のラブレター 15 決意

つくしが置いて行ったラムネを握りしめ、邸に入り
タマの姿を見つけた司は

「どうして、俺が大事にしてるものを、片っ端しから取り上げる」

声を荒げる事もなく、静かな口調でタマに詰め寄った

「坊ちゃん・・・・」

使用人がラムネを持ってきたとき、タマは、つくしが邸に来ていたと
察しがつき、司の目に触れないよう、捨てろと指示した
そのラムネを握りしめた司の拳は怒りに震え
相手がタマでなければ殴り飛ばしていただろう

幼い頃、両親と別荘に行き、仲良くなった近所の子供達と遊ぶ事が
楽しみだった ある日、突然母親の楓から

「司さん、あの子達と一緒に遊んではいけません」
「汚らしくて、教養もなく下品です」
「道明寺家と釣り合う子とだけ遊びなさい」

そう言うと、一緒に遊ぶことを禁じた
母親が言ってる意味もわからず、仕方なく従ったが
高校予科に入っても同じで、楓のお眼鏡にかなった友人としか
付き合うことを許さず、夢中だった、船舶の本も取り上げられ
家庭教師を雇い勉強させ、司の気持ちなど無視し、徹底的に
管理される日々を送っていた
思春期に入り、母親の監視が疎ましくなった司は、
暴力で抵抗するようになっていった

何もかもが面白くない・・・・
そんな時、眩しい笑顔を放つ、つくしに出逢い
一目見たときから恋に落ちた
今まで司が大切にしてたモノをことごとく奪われ
つくしは、司の中で一番大切な存在だった
なのに・・・それさえも奪って行くことが許せなかった

司は、自室に戻ると身なりを整え

「出かけてくる」とタマに声をかけ

「どちらまで・・・・」と尋ねてきたタマに返事もせず
出て行ってしまった

======*=======*=======

「こんにちは」

見慣れない背の高い若い男が牧野家の玄関先に立っていた

「どちら様でしょうか?」

つくしの母、千恵子が恐る恐る尋ねると

「道明寺司申します」と名乗り、
司の突然の来訪に驚いた千恵子は、

「先日は、大変、結構な物を頂戴しまして・・・」と
つくしが持ち帰った玄米の礼を言うのが精一杯だった

千恵子は、世間の噂で、司に対して、悪人顔をした
とんでもない男だと想像していたのに
目の前にいる若者は、礼儀正しく、育ちの良さを感じさせ
一番驚いたのは、背の高さと、端整な顔立ちだった

「お、お、おじいちゃん・・・道明寺さんの坊ちゃんが
 お見えになってます」

その言葉に、縁側にいたつくしの表情がぱっと花咲いた
祖父が玄関まで行き、司を招き入れ

「これは、坊ちゃん、暑い中、わざわざこんな所まで
 足を運んで下さって・・・・」
 
良い機会だと思い、祖父は、きちんと司と話をするつもりでいた

「狭い所ですが、お上がり下さい」

「ありがとうございます お邪魔します」

そう言うと居間に通され、久しぶりに
つくしの顔を見た司は、いつものように目を細め優しく笑いかけた

「つくし、坊ちゃんに冷たいお茶を・・・」

「はい・・・・」

祖父に声をかけられ、ほんのり頬を赤く染め、
台所に消えていった

祖父は「先日は、ありがとうございました」と千恵子同様
つくしに持たせてくれた玄米の礼を伝えた



「暑い中、こんな所までお越しになって、何用でしたか?」と
祖父が尋ねてきた

出された座布団に正座していた司が
さっと、座布団を横に退け

「今日、お邪魔致しましたのは、
 折り入ってお願いがあったからです」

司が何を言いたいのか、祖父はわかっていた

「つくしさんと結婚を前提にしたお付き合いをしたく
 お許しを頂きに参りました」と祖父の目を真っ直ぐ見つめ話す司は
 威風堂々として、祖父でさえ、すぐ返す言葉が見つからず
 彼の真剣な想いに、出来ることなら一緒にさせてやりたいとまで
 思ってしまった

司の申し出に、お茶を運んで来たつくしが
驚いた顔をして、司をじっと見つめていた

「坊ちゃん、うちの孫娘をそこまで想って下さり
 嬉しゅうございますが、坊ちゃんには、坊ちゃんの
 つくしには、つくしの幸せがあります」

「私の幸せは、つくしさんと一緒になることです」
「他の幸せは、考えておりません」
「私は、道明寺家と縁を切る覚悟でここに参りました」
「どうか、つくしさんとの事をお許し頂きたく存じます」
そう言うと、畳に額をつけて土下座した

人に頭を下げることも、まして土下座などしたことがなかった司が
つくしとの為なら、何もかも捨て去れる程の
強い気持ちと揺るぎない覚悟を伝える為に訪れた


「司さん・・・・」

自分の為に、土下座までする司を見て、つくしは泣き出し
祖父は、目元に光る物を悟られまいと無言で天井を見上げた

「人の皮を一枚剥ぎ取れば、みな同じ屍、最後は灰になるだけです
 その灰を見て、身分など区別はつきません 意味もありません」
「大切なのは、生きた時間ではなく、生きた内容です
 同じ屍になるのなら、己の心に正直に生きたいと思っております」

たった18歳の若者が、そこまでの覚悟をもってやって来た
祖父は、何も言えなくなり

「坊ちゃん、少し時間を下さいませんか?」

そう答えるのが精一杯だった

=====*======*=======

「つくし、坊ちゃんをお見送りして来なさい」

「はい」

玄関まで行くと、祖父と千恵子を見つめ

「私は、諦めません、お許し頂けるまで何度でも
 お邪魔させて頂きます」そう伝えると深々と頭を下げた
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