鍾愛 67

どこでもいい。スマホで、ネカフェから一番近い不動産屋を
選んだのが悪かった
いつも、こうやって、ナンパしながら、商売してるのか?
部屋を仲介してもらうのだから家も丸わかり
それって・・・ヤバくない?
いや・・・ヤバいよなぁ・・・男が車を取りに行ってる間に
逃げようと思ったつくしは、バッグを手に持ち出入り口へ急いだ

「お待ちどおさま!車の用意が出来ました」

見てたのか?男が絶妙のタイミングで、
ニコニコしながら戻って来た
こう言うタイプって、断れば豹変しそうな気もする
何軒か、紹介してもらってから断ればいいか?
男に誘導されるまま、つくしは、車に乗った
着信拒否設定をしておきながら、
司から、電話がかかってきていないか
バッグに入れたまま着信を知らせるSNSを確認する
ない・・・・どうして、ここまで落胆するんだ?
未練がましい自分に嫌気が差す

「あのーう・・・聞いてました?私の話?」

「すみません。考え事してました」

客に対して、なんて言い方するんだ。接客業とは思えん!
感じが悪いと思いつつ、半日つぶれる時間が勿体ないけれど
仕方が無いと、つくしは、諦めることにした

「自殺、他殺、火事どの事故物件がいいですか?」

「あああぁぁぁ・・・どれと言われても」

「ですよねぇ。じゃぁ、まともなのにします?」

自殺、他殺、火事・・言葉にすると、どれもキツい
でも、断る言い訳にはなるか

「火事で、お願いします」

「了解!」

「1軒目、目指しまーーす」

はぁーっ。ツイてないと、つくしは、ため息を漏らすしかなかった

=============
RRRRRRRR

プゥープゥープゥープゥー

「繋がらねぇ。誰と話してやがんだ!あの女!」

仕事の合間に、何度も、つくしの携帯に電話をかけても話中
イライラしながら、司は、鬼のようにかけまくっていた

「西田、電話が繋がらない時、どうすりゃいいんだ?」

予定していた会食に向かう車内で、司が聞いてきた

「朝から、ずっと話中なんだよ」

何度目の電話だ。スマホを耳に当ててる相手は
つくしだろうと、西田は察しがついていた

「誠に、言いにくい事ですが、
 つくしさまが着信拒否されているかと思います
 GPSで追跡なさってはいかがでしょう?」

「着信拒否だとぉぉぉぉ!このオレ様に!」

初めて受ける仕打ちに司は、フリーズする
つくしに内緒で、「位置検索を許可しますか」の確認画面を出さず
常に許可するように設定しておいたGPSで、早速、追跡した
都内某所に居る事を知らせる情報が来る
部屋にいないのか・・・・なに、してやがる
連れ戻したくても、予定が、ぎっしり入っている司には無理だ
千恵子と会い話を聞き、きちんと把握してから
つくしに伝えて承諾を得て、ボディーガードをつけるつもりだった
ミスったな・・・俺としたことが・・・
GPSが機能している間は、大丈夫と思うしか無い
もどかしさと腹立たしさで、どうしょうもない感情が
押し寄せてきた

=============

「ここです。駅からは遠いですが、2DK家賃は
 管理費込みで4万5千円!」

スーパーも近い、自然も多い、築20年
前に住んでたアパートよりか見た目にはキレイなアパートを
案内され、室内に入ると、6畳の部屋と
同じくらいの広さのキッチン。風呂とトイレは独立している

「火事って?」

「事情は、わかりません」

「で、その方は・・・・」

「お気の毒ですが、亡くなられました」

「・・・・・・・」

「次、お願いします」

失恋で、へこんでるのに、事故物件を見て回ると
霊感0のあたしでも気持ちがリンクして重くなる

「大丈夫ですか?顔色悪いですよ」

当たり前でしょう
望んでないのに突然、人生が終わった人達の事を思うと
やりきれない気持ちになってしまう
商売で慣れてるのか?男は、平気そうだった
3軒目の物件についたあたりで、ドキドキしながらスマホを確認してみた
ハッと口元を押さえ、司から着信記録が残されている事に嬉しくなっていた

「ここは、いいですよ!12畳のリビング、6畳のキッチン
 テラスも広いですし、ただ、1ヶ月以上住んだ方は
 一人も、いらっしゃいません」

外から見ても、センスのいい外観。どんな事故物件なのか
つくしは、聞く気が失せていた
室内を見る気にはなれないと断って、
物件まわりを終わりにしてもらう
司からの着信をみたせいで、つくしの心が揺れていた
たった半日で、


司ロス


情けない・・・・会いたいよぉ・・・
そんな気持ちを、粉々にぶち壊す、ちょい悪オヤジの誘い

「そろそろお昼ですね。どっかで食べて帰りますか?」

「何でですか?」

「なんでって、お昼だから!お腹空きません?」

とことん軽い、この男。さっき、眼鏡を外した顔を見たけれど
物凄いイケメンだった
花沢類と西門さんを足して二で割ったような雰囲気で
モテるはずなのに独身なのは、女好きだからなのか?
この男と、お昼だなんて、勘弁だわ
まっすぐ事務所に帰るのかと思いきや
着いたのは、ファミレスだった

「疲れでしょう?どの物件になさるのか
 お昼でもたべながら、聞かせ頂きたいので・・・」

愛想だけは、ピカイチだ。苦手だ、こう言う男って
どうしても、硬派すぎる司と比べてしまう
強引な男に、どう接していいのかわからず
逃げ出す訳にもいかず、つくしは、渋々承諾していた

「止まった・・・・」

司は、絶えず、つくしをGPSで追っていた
なにやってんだ?あっちこっち、ほっつき歩きやがって!
取引先と会食中に、呟いた司の声を西田は聞き逃さなかった

「佐々木社長、申し訳ございません
 わたくし達は、中座させて頂きたく存じます」

西田が、土下座するように深々と頭をを下げた

「そうでしたな。道明寺さん、体調が悪いのに申し訳ない
 また、改めて、お会いしたい」

こんな事もあろうかと、西田が手を打っていた
司は、数日前から体調が悪く、何があっても、
顔だけは出しておきたい。ただ、最後まで、お付き合いする事は
難しいかも知れないと先方の社長に連絡を入れていた
司も、西田と言わんとする事がすぐにわかり

「申し訳ございません。せっかくお誘い頂いたのに
 私の不徳の致すところで、ご迷惑をおかけ致しました」

と、詫びる

「いやいや、身体あっての物種
 無理は禁物です。体調が良くなったらゴルフにでも
 行きませんか?」

「是非、声をかけて下さい。体調を万全にして
 お誘い、お待ちしております。それでは、失礼致します」

司の演技もなかなかだと、
相手に聞こえないように西田が、小さく鼻を鳴らす

=========
怒っている原因をはっきり言わないつくしに対しての怒りと
自分が傷つけた事を許して貰えるのかと言う不安を抱え
つくしを捕獲すべく待たせてあった車に乗りこんだ

ランチタイムの店内は、主婦らしきグループと
制服を着たOLが、お喋りに夢中だった
久しぶりに来たファミレスの騒がしさに
男と会話が弾まなくても気にしなくても良さそうだと
つくしは、ホッとする

「お待たせ致しました。ハンバーグドリアでございます」

高校生のアルバイトらしき可愛らしいウエイトレスが
注文した、ドリアを運んできた
なんなんだ、このシチュエーションはと
改めて思いつつ、チーズの香りが食欲をそそる
出来たてのドリアを男と一緒に食べ始めた

「で、気に入った部屋は、ありましたか?」

「はぁ・・・やっぱり事故物件は・・・・」

「で、しょうね。私もお勧め致しません」

つくしが、半分ほどドリアを食べ終えた頃

ピポピポピポ

フロアーに来客を知らせるアラームが鳴る

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」

スタッフの声を無視して、ハンターの如く店内を見渡す長身の男
ターゲットは、ただひとり

「チッ!居やがった」

「お客様・・・・」

スタッフの呼びかけに、うるさいと言わんばかりに
追い払い、ドカドカと大股で歩く司は注目を浴びていた

「説明してもらおうか!この男は誰だ?」

聞き覚えのある、低い声が、つくしの耳に、
すんなりと入ってきた。ヤバい!
条件反射の様に、目が泳ぐ

「ひゃっ・・・・なんで居るの?」

「なんでだと?俺が言った事、聞こえなかったのか?
 この男はなんだと聞いてんだよぉ」

「私ですか?不動産屋です。牧野さんのお部屋探しの
 お手伝いをしております」

「はぁ?」

「ですから、お部屋探しの・・・」

男が、スーツの内ポケットから名刺入れを出し
司に渡そうとした瞬間、つくしの手首を乱暴に掴んだ司が
椅子から引きずり出そうとする

「ちょっと、貴方、乱暴すぎるでしょ?
 嫌がってるじゃないですか!もしかして、DV彼氏とか?」

「あぁ。喧嘩売ってんのか、オッサン!」

司が、坐ってる男をキッと睨んで威嚇する

「いいから、来い!これは、こいつの分だ」

財布から、千円札を二枚を取り出し、
テーブルに叩きつけるように置いて
つくしを店内から連れだした

「道明寺司・・・牧野つくしと、どう言う関係だ・・・」

男は、司の事を知っていた。だて眼鏡を額まであげると
出て行った、ふたりの様子を店内から注意深く見つめていた

鍾愛 66

「まだ、ご機嫌ななめか・・」

翌朝7時過ぎ、目が覚めた司は、眠い目を擦り
隣のベッドに目をやる。背を向けたままのつくしを見て
女ってやつは・・・全く・・・
怒ってますって態度を見せつけておきながら、理由は言わない
やれやれと、ベッドルームのドアを開けた
がらーんとした部屋は、昨日の朝とは大違いだ
キッチンに立ちつくしから教えてもらった、コーヒーメーカで
コーヒーを淹れている間
朝刊代わりに、スマホでネットニュースを閲覧する
大手自動車メーカが、タクシー業界に参入すると言う記事が
目についた

ダーティワークのイメージがついた父、誠は、
お金に執着するのに、商才がないのが致命的だった
鉛の弾を浴び、ハクがついたとすら思うのは、
見た目の強面さと、銃撃されたエピソードが
相手を威嚇させる武器となっている事を知っていたからだ
永田町の住民を札束と言う餌を与えて飼いならす才能にも
長けている
そればかりでは、企業のドンは務まらない
破天荒な誠の足りない部分を補っていたのが、
弟である望と妻の楓だった
司は、始めから、誠のことは眼中にはない
厄介なのは、母、楓の方だ
つくしといい、楓といい、女と言う生き物は
理解出来ない事が多すぎて、手強いと、
今更ながら、再確認せずにはいられなかった

コーヒーを飲みおわると、丁度いい時間になっていた
身支度をして、起きてこないつくしに
「いってくる」と声をかけて、部屋を出た

「おはよ」

「お前も、今からか?」

エレベーターの前で、出勤する類と出くわす

「そう。もう少し休みが欲しいところだけどね
 つくしちゃんと仲直り出来た?」

「喧嘩もしてねぇのに、仲直りもクソもねぇだろ」

「わかってないね・・・滋と桜子を呼ぶからだよ」

つくしの機嫌の悪い理由を類が、いとも簡単に解決してくれた
チッ、そんな事か・・・良かれと思った事が逆だったとは
類の言葉で、ようやく気がついたのに、部屋をノックして
つくしの誤解を解く時間は、司には、許されてない
俺より知ってやがる・・・片眉をあげるおなじみの表情を作ると
黙り込む

チーン

「迎えは?」

「俺?いない」

「一緒に乗ってくか?送るよ」

親指を立て、マンションの入り口に、停まるメルセデスを指す

「マイカー通勤してんだ」

そう言って、フロアーの片隅に置いてあった
マウンテンバイクを指さした

「チャリ通勤か?」

「渋滞も気にしなくていいし、一番効率的でしょ?」

相変わらずだ・・・類の自由な発想は、時々羨ましいと
思うことがある。大企業の跡取り息子なのに
自分には、とても無理だと思う冒険もする
昨日の、バッタとりもそうだ

「気をつけていけよ!」

「司も」

リュックを背負い、スーツ姿でサラ髪をなびかせながら
走り去って行く類を見送り、司も、車に乗り込んだ

==========
つくしは、そーーーぉっとベッドルームのドアを開け
司が、出て行った事を確認すると
クローゼットの荷物をまとめて、エレベーターの前に置き
大慌てで身支度をしていた
8時半に到着するようにタクシーを呼んでいる為だ
夜逃げならぬ、朝逃げ
とりあえず、住んでたアパートに帰ろう
さよさらの言葉をつぶやくと、部屋の鍵を閉めた

==============

「ぎぇぇぇぇぇ!なにこれ!」

アパートに到着すると、つくしが持っている鍵では扉が開かない
隣の敷地に住む大家に電話をかけ、事の顛末を話すと
アパートまでやって来た

「あら、牧野さん、どうしたの?」

「部屋に入ろうと思っても、開かないんです」

「そりゃそうよ。鍵変えたんだから」

「何でですかぁぁぁ!」

「何でって、あの部屋、解約したでしょ?」

「した覚えありません!」

「ええ?牧野さんの婚約者って名乗る、いい男が来てね
 近々、結婚して引っ越すから、解約手続きしてくれって
 いい人、見つけたね・・修繕費とお世話になったお礼だって
 結構な額まで頂いて・・・」

「あんちくしょぉぉぉぉ!勝手になにしてくれてんのよぉ!
 解約は、無かったことにしてください」

「それは、無理だわ、もう人が住んでるから
 夫婦喧嘩でもしたの?お金持ちだわ、いい男だわ
 言うことないのに。我慢も結婚生活には必要よ」

大家に軽くあしらわれ、行き場を失ったつくしは
待たせていた、タクシーに仕方なく乗り込んだ

「一番近い、ネットカフェに行って下さい」

「ネットカフェですね」

運転手が、ルームミラーからチラリと視線を投げかけて
確認してきた
お金もないのに、家なき子って・・・つくしは、一気に不安に駆られる

「ありがとうございました」

運転手が、ネカフェに荷物を運ぶのを手伝ってくれたおかげで
助かった。よし!住処を探さなければ!
あたしは、名の通り逞しい女
諦める事は、嫌と言うほど慣れている
今までだって、そうして来たのだから、
これからも、そうして生きていく!あらたな決意表明を
自らの心に誓い、近場の不動産屋に、突進する

「どのような、お部屋をお探しですか?」

「お風呂とキッチンがあれば狭くても、古くても構いません
 それと、駅近でなくともOK。とにかく安い!
 それで、探して下さい」

「ご予算と地域は、どうなさいますか?」

「管理費込みで6万以下でお願いします!
 この際、事故物件で、幽霊の嫌がらせとか
 同居とかも、全然、大丈夫!とにかく安い物件で!」

つくしの迫力におされた、不動産屋は、早速パソコンに向かい
物件をチェックしだす

「ほんとに、事故物件でもいいんですか?」

「構いません!あたし、こう見えても強いですから」

「私と、デートしてくれたら、良い物件ご紹介しますけど」

「はぁ?」

そう言って来た不動産屋は、中年にしては、いい男だ
きれいな二重まぶたで、眼鏡がインテリジェンスな雰囲気を
醸し出している

「な、なに言ってんですか?」

「こう見えても、花の独身!身辺はきれいなもんです
 デートと言っても、ご飯食べて下さるだけで良いんです
 お一人様って、気楽ですけど、ひとり飯は、侘しいもんで」

初めて会った客をナンパするなんて
なんて、軽い中年オヤジなんだ・・・
つくしは呆れてしまい、結構ですと席を立とうとした

「今のは、ジョーダンです。ご案内します」

条件に合う空き物件を手早くプリントアウトすると
ちょい悪オヤジな男が、車を取って来ると言い残して
店を出て行った

鍾愛 65

つくしは、ずっと外を見たままで
司の顔を見ようとしない
繋いだ手を離そうとしても、
ガシッと握られていて離せない
そこまでしなくたって、わかってるんだから・・・
わざわざ、滋さんに合わせたくせに・・・
悔しさと腹立たしい気持ちで、自分の馬鹿さ加減に涙がでそうだ

「なぁ・・・」

「なに・・・」

「桜子に何か言われたのか?」

「なにも・・・世間話しかしてない」

「何で、そんなに機嫌が悪いんだよぉ」

「べつに・・・普通ですけど。疲れてんの黙ってて」

突っぱねるような言葉を吐くつくしに
ふぅーっと、司が、ため息をついた

================
午後11時すぎ、マンションに到着したふたり

「ほら、これ、支配人が、お前にって・・」

可愛らしい籐のバスケットに入った焼き菓子を
司が、ダイニングテーブルの上に置いた
つくしは、チラチラ見える腕時計が気になって仕方が無い

「素敵な時計だね」

取って付けたように聞いてきた
司は、Yシャツの袖を少しだけ、たくし上げ視線を落とす

「俺の好きな人が嵌めてたロレックスの復刻版だ」

「そう・・・・」

つくしは、着ていた司の上着を投げ捨てると
ドカドカとベッドルームに歩いて行き、着替えを抱えて
バスールームまで走ってゆく
司は、そんな、つくしの行動が全く理解出来なかった

ザァーーー

桜子が言ったことは本当だったんだ・・
そこまでして、滋さんとよりを戻したいのに
何が、焼き菓子よ!バカにしないで! 
つくしは、溢れる涙をシャワーのせいにした

RRRRRRR RRRRRRRR

「司・・・お疲れさま。さっきは、ありがとう
 丁度、電話しようと思ってたとこ・・・・
 つくし、どうしてる?大丈夫?」

「なんかあったのか?機嫌が悪くってよ」

「お茶の最中に、仕事の電話がかかってきて
 あのふたりの傍にいなかった。ごめん・・・
 ちゃんと話を聞いてあげてね」
 
「ああ・・わかってる」

シャワーを浴びたつくしが、バスタオルで頭を拭きながら
リビングを素通りしようとしたところを司が
通せんぼうするように道をふさぐ
ネクタイを外し真っ白なYシャツのボタンが胸元辺りまで開き
逞しい大胸筋が見え隠れする
大きな躰、程よい筋肉、独特の癖のある髪、涼しげな目元と唇
官能的と言うより、美しかった。目が離せない・・・
どうして、あなたは、あたしを惑わせるの・・・・
つくしは、じっと司を見つめていた

透き通るような白い肌、きつく抱けば壊れてしまいそうな儚さ
光の加減で、深い藍色に見える大きな瞳
あどけなさと、無色透明な清らかさ
どうして、お前は、俺を困らせる・・・
互いの心の中の想いを口にだせないまま見つめ合っていた

RRRRRRRR RRRRRRR

司のスマホが鳴っているのに、出る気配がない
気になったつくしが、テーブルに置かれた
スマホに目を移すと渋々、司が手に取った

「俺だ。いいや、大丈夫だ。どうした・・・そうか・・
 なるだけ早く会いたいと伝えてくれ。ああ・・・そうだ
 それは、任せる。お疲れさん」

電話の相手は、西田だった
つくしの母、千恵子と内密に会いたいと西田を通して
コンタクトを取っていた。何事かと警戒した千恵子が
用心したため、事がはかどらなかったが
ようやく、会っても良いと言う返事が来たと言う報告だった

「シャワー浴びて来る。着替え、出しといてくれるか?」

つくしが、コクリと頷くと、ベッドルームに
着替えを取りに行き、サニタリールームに置いた
リビングのテーブルの上に、
時計とスマホが置きっぱなしになっている
見てはいけないと思いながら、見ずにはいられなかった
ロックがかかってないスマホは、簡単に見ることが出来た
いきなり飛び込んで来た、「滋」の文字
電話をかけたのは、やっぱり司なんだ
認めたくないつくしは、スマホを元に戻すと、
ベッドルームに飛び込んで行った

寝たのか?
シャワーを浴び戻ってきたリビングに、つくしの姿はなかった
司は、グラスとウイスキーのボトルを抱え、身体を投げだすように
ソファーに坐る、女心のノウハウを熟知している総二郎なら
いとも簡単に、つくしの心理も解読出来ただろうな
自分なりの精一杯の想いを、つくしに捧げてきたつもりなのに
女の機嫌なんて取った事がない司は
どう接して良いのかわからなかった
寝酒にしては、酔えない、ウイスキーを飲み干すと
ベッドルームのドアを開けた

昨日まで、手前にあるベッドで一緒に寝ていたのに
つくしは、ひとり、奥のベッドで背中を丸めるて寝息をたてている
頑ななまでに拒絶され、さすがの司も、へこんでしまった
明日の朝には、機嫌がなおっている事を期待して
つくしの体温を感じられないベッドで眠りにおちた

===========

ここからは、拍手コメント御礼となります

つくしさま

はじめまして。
拍手コメント頂き、ありがとうございましたm(_ _)m
桜子の意地悪も、年季が入ってきたのか?(・_・;)

鍾愛 64

「こちらでございます」

支配人が案内してくれたのは、天然木で造られたたテラス席
外でも、食事を楽しみたいと言う客の声に応えて増設した
庭の芝生は、冬枯を防ぐため暖地型芝の上から
寒地型芝の種をまき、隅々まで手入れが行き届いている
絶妙のライティングと、月明かり。
北の方角を見れば北斗七星が見つけられる
北極星、こぐま座、乙女座・・
派手なネオンサイに邪魔されない夜空は、
贅沢な、自然のプラネタリウムだ

「素敵なテラスだねぇ」

木目を活かしたお洒落なテーブルと椅子に腰掛けた
女子3人の目の前に運ばれて来たアッサムティーは
芳醇な香りを漂わせ、さっきまで鼻腔をついていた
芝の青臭い匂いをかき消していた

ティーカップに、たっぷりとミルクを注ぎ入れた滋が
カップの耳を指で摘まんで口に運ぶ
さすが、お嬢様。カップの耳に指を入れてはいけない事を
知ってるんだ・・・
司と出逢った頃、お茶の飲み方も知らないのか!と
ビシバシとやられたことをつくしは、思い出していた

「ねぇ、司って、どんな感じ?」

「どんなって?」

滋が言っている意味がわからないつくしが聞き返してきた

「好きとか、愛してるーぅとか言ったりするの?」

「あー。言われたっけ?覚えてない。すぐ怒るし、おっかなくって」

本当は、優しい司の事を惚気たいけれど、
元婚約者の滋に言えない、嫉妬心をむき出しにしてる桜子は
相変わらず、不機嫌そうだ
つくしは、わざと、話をはぐらかして、ふたりの反応をみていた

「やっぱしぃーーーわかるわー!それ!」

滋は、女のつくしが見ても魅力的なのに
どうして、別れちゃったんだろう?
今は、何とも思ってないんだろうか?
元カノと女友達のままいられるものなのか?
滋とは、気が合いそうだけど、
過去のことが気にならないと言えば嘘になる

「司と初めてデートした時さ、寒い!眠い!帰る!だもんね
 それから何度も会ってんのに、指1本触れてこなかったわ
 私ってさ、よっぽど女としての魅力がなかったんだろうね
 あっさりフラれちゃった・・・・」

いたずらぽく笑う滋の本心なのか?つくしには、わからなかった
桜子は、相変わらずツンツンして、つくしの事を
受け入れる気はなそうだ
司が一番信頼してる女友達だと聞いている以上、
仲良くしなければ、彼の顔を潰すことになると
気がつかないふりをしていた

RRRRRRRR RRRRRRR

滋の携帯電話が鳴っている

「ごめん・・・電話だ・・・」

仕事の相手なのか?難しそうな話をしていた

「牧野先輩。素敵なお庭なのに、お茶だけ飲んでるのも
勿体ないですから、少し歩きませんか?」

桜子の口調は、穏やかで、自分が勝手に彼女の事を
誤解しているのかも知れないと思い一緒に
庭の散策に行くことにした
立ち上がり、店内にいる司に目をやると、こっちをみていた
早く出て来てきてくれれば良いのに・・・
そう思いながら、歩き出す

桜の花が散り、ピンク色のハナミズキが満開に咲き誇っている
春には、可愛らしい花を咲かせ、秋には赤い実をつけ
紅葉も奇麗なハナミズキは一年中楽しめる樹木として
人気が高い
何気なく、葉の裏を見ると、アゲハチョウが羽を閉じ状態で
とまっていた。眠っているのか?
そう言えば、蝶々が夜、飛んでるところは見たことがない
庭の散策も、色々な発見があって、面白いもんだと
桜子の機嫌の悪いことも忘れて見入っていた

「牧野先輩・・・勘違いなさらないで下さい」

突然、語尾を強めた桜子が、嘲笑うかのように話しかけてきた
つくしは、何のこと?と、桜子の横顔をみた

「滋さんは、ああ言ってましたけど、道明寺さんとは
 ラブラブで、フラれたのは滋さんではなくて
 道明寺さんの方ですから
 私と滋さんが、どうして呼ばれたかわかりますか?
 今カノと元カノが同席するなんて、あり得ないじゃないですか
 道明寺さんは、滋さんを取り戻す為に、一芝居打ったんです
 先輩と婚約したと知れば、滋さんだって気にならないはずがない
 だって、あれだけ愛しあっていたんですもの・・・
 道明寺さんは、滋さんに嫉妬して欲しかった
 戻って来て欲しかったんです
 ふたりの腕時計見たでしょう?お揃いのロレックス、
 道明寺さんが、滋さんに贈ったものです
 滋さんだって、本当は、道明寺さんとよりを戻したい
 だから、ここへ来たんです。邪魔しないでもらえません?
 相思相愛のふたりを貴女が邪魔する権利なんてありませんから」

ハナミズキを手でむしり取って投げ捨てた桜子が
冷たい笑みを浮かべながら、つくしに言った

「つくし、桜子・・・ごめん・・お茶、冷めちゃったね
 入れ直してもらう?」

電話を終えた滋が、いつの間にか傍にいた事も気づかなかった

「あたし、もういい。お腹いっぱいだから飲めないかも?」

「プティフールが残ってるのに?美味しそうだよ
 別腹で食べれるっしょ?」

つくしの様子が変だ。桜子に何か言われたのか?
滋は、スマホを取り出すと
つくしが寂しそうだから来てあげてと
司にメールを打っていた

「ちょっと、外の様子てくるわ」

幼馴染みを残して、司は、一人部屋を出て行った

「すっかり変わっちまったな」

「それだけ、つくしちゃんに、惚れてるって事じゃねぇーの?」

慌てて出て行く司の背中を見ながら、総二郎とあきらが呟いた

「良い子だよ・・・」

司同様、女の事は、適当な類が、ボソッと言う

司が傍に来たのに、つくしは目を合わさない
桜子に、何か言われたか・・・・・
すまないと言いたげに、つくしの肩に手を乗せ引き寄せると
髪に、キスをする

「どうした?お前の好きな焼き菓子食べてないじゃん
 他の物に変えてもらうか?」

「いらない。お腹いっぱいだから」

素っ気ない、つくしの態度に、司が、何があったと
滋と桜子に向かって交互に視線を流す
滋は、首を左右に振り、桜子は、いい気味だと目を逸らした

「そろそろ、帰っか?」

機嫌を伺うように、つくしの顔を覗き込んで聞いても返事がない
待たせていた、車に、つくしを乗せた後、
滋と桜子を置いて無言で歩いてゆく

「あれ?つくしちゃんは?」

「俺ら、先に帰るから、お前ら、好きなだけいろよ」

なんとなく機嫌が悪い司に、幼馴染み達は
お疲れ!と右手を挙げて、突っ込みも入れず見送った

「なんかあったんか?機嫌悪かったよな」

総二郎が、やれやれと、ため息を漏らす

「桜子に、なにか言われたのかもね」

類は、全部、お見通しだと言いたげに、外の様子を見ていた

「桜子、つくしに変なこと言ってないでしょうね?」

「言う訳、ないじゃないですか・・・道明寺さんの大切な人ですよ
 私だって、仲良くしたいですもの」

付き合いの長い滋に、嘘は通用しないのに
桜子は、しらを切り通した

「司、つくし、また、ゆっくりね・・・」

パーキングまで見送りに来ていた、滋が声をかけた

「牧野先輩。ありがとうございました」

司の前では、別人な桜子が、笑顔で言った
無視するほど、つくしも子供じゃない。ふたりに礼を伝えると
車が静かに出発する

「具合でも悪いのか?」

「別に・・・・・」

目も合わさず返事をすると、つくしは、窓の外を見ていた
指先を絡めるように手を繋いできた
司の左手首にチラリと視線を向ける
ロレックスの腕時計・・確かに、滋と同じだ
司が、滋と婚約していた事は事実。滋も、それを認めている
つくしは、心の中で、やっぱり・・・
あたしなんか・・・好きになるわけないよね・・
傷が深くならないうちに、あの部屋を出よう
また、一からやり直すだけのことなんだから・・・
婚約した、ふたりの間に不吉な暗雲が立ち込め始めていた

鍾愛 63

12畳ほどの司専用の個室で食事会始まる
掘り炬燵の上座に、司とつくしが並んで坐り、その横に類
向かい側に、総二郎、あきら、滋、桜子が腰を落ち着けた
酒に強い男たちはアルコール度数のやや高いドライシェリーを
食前酒に選び、滋と桜子は、ワインベースのカクテル、
ペリーニをチョイスする。つくしは、この店に初めて訪れた時と同じ
思い出のミモザを注文した

「それでは、皆さん揃ったところで、せんえつながら
 わたくし美作が、乾杯の音頭を取らせて頂きます」

あきらの声で、7人同時にグラスを手にする

「司とつくしちゃんの婚約を祝して、かんぱーーーい!」

「かんぱーーーい!」

「私は、認めてませんけど・・・」

桜子がプイッと顔を横に向け小声で呟く

「可愛いねぇ」

運ばれてきたアミューズに、話題が移るよう
滋が気を利かせて、オーバーアクションではしゃいで見せた
動物性たんぱくが苦手な類のため、春野菜をふんだんに使った
アミューズは、シンプルな白い皿に盛りつけられ
色鮮やかで、センスがいい

「ほんと、素敵!」

つくしも、目を輝かせ、斜め後方に坐る滋に顔を向けた後
このカトラリーであってるよね?と言葉ではなく、
視線で、司に聞いてきた
大丈夫だと司が、にっこり笑みを浮かべながら頷く

「熱っつぅぅぅ。この部屋の温度10度は上がったんじゃねぇ?」

総二郎が、ふたりのやり取りを見てパタパタと手で扇ぐ

「でぇ?司の一目惚れってやつか?」

飲みかけのドライシェリーをスマートに
唇に移したあきらが、恋に落ちたきっかけを聞きたくて
うずうずしている

「そんな事、聞いてどうすんだよぉ」

「そりゃー、ここに居るみんな聞きたいって
 お前、俺の3回ルールを真似て、それ以上、
 女と会わなかったじゃん」

「ううん・・・」

余計なこと言うな!と、司が、わざとらしく咳払いをした
ペラペラと面白半分で、過去の女のことを
つくしにバラれたらたまったもんじゃない

「猫だよ・・・こいつが、野良猫の飼い主探してたんだ
 そこへ、たまたま俺が出くわした。それだけだ」

いつもより、低いトーンで、ボソボソと話す

「ショートカットしすぎな馴れ初めだよね
 そこまでのプロセスに、興味あるのに」

滋も、なかなか食い下がらない
司も、話したいことが山ほどあるが、つくしが居る手前
複雑な事情までは、言えなかった

「野暮な事、聞いてどおすんの?・・・
 司見てたらわかるでしょ?」

今まで、黙ってた類が、一気に、完結させてしまった

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コース料理は、アミューズに始まり、デザートのデセールが
運ばれてくるタイミングで、個室のドアがノックされた

「失礼致します。ご用意が出来ました」

「つくし、滋、桜子、庭に出て来いよ。夜空が奇麗だぞ」

幼馴染みに事情を話すため、デザートまで来たら
つくし達を外に連れだして欲しいと支配人に頼んでおいた
司は、桜子の嫌味が気になったが、滋がついているから
大丈夫だろうと、行って来いと促していた

「親睦を深める為に、丁度いいですわ・・・」

桜子が、にっこり微笑む

「女子会だね!」

勘の良い滋は、何か思惑があって司が、そう言ってるのだろうと
察して立ち上がると薄手のショールを羽織って待っている

司は、汚れた、つくしのパーカーを脱がせると
自分が着ていたスーツの上着を、肩にかけ
襟足に入りこんだ長い髪を整えてやり、優しく頭を撫でている
暖かくなったとは言え、郊外にある庭は、まだ肌寒い
不格好でも、風邪をひかせるよりはましだ
遊びでも、連れて歩く女の身なりにうるさかった司が
化粧っけもなく、見るからにお高く無さそうなパーカーを
着ていても、気に止めない。おまけに、蕩けそうなあまい顔で
ひと目もはばからず、つくしの髪を撫でている姿に
総二郎とあきらも、目を丸くした

「俺達も、後から行く。先に行ってろ」

「つくし、行こ!」

滋が、コートのような大きな上着の裾を引っ張っていた

「ご案内致します」

支配人のエスコートで、女たちは部屋を出て行ったのを
見計らって、あきらが聞いてきた

「式は挙げずに入籍だけするつもりか?」

「色々あってな・・・どうしていいか、わかんねぇんだ」

初めて聞いた、司の弱音に本気さが伺えた

「あいつに初めて会ったとき、声をかけずにはいられなかった
 何だかわかんねぇーけど、磁石みたいに吸い寄せられて
 健気でよぉ・・・折れそうな細い身体して、一生懸命でさ
 負けん気が強い癖に、壊れちまいそうで・・」

「気になったんだ?」

類がしみじみと呟く

「親父とハバァには、道明寺財閥から手を引いて貰うつもりだ」

「マジか?みずきは、お前の婚約者気取りだぜぇ」

「みずきは、大手製薬会社のお嬢様。そら、お前の両親も
 押し付けたくなるわな・・・」

部屋の空気が変わり、幼馴染み達も真剣に聴き入っている

「実はな・・・・俺とつくしは、いとこ同士なんだ」

庭で、デザートを食べる、つくしを目で追いながら
司が言った

「はぁ?」

司の口から、思っても見なかった言葉が漏れて驚きを隠せなかった

「亡くなった、叔父の娘なんだよ。俺も知らなかったけどな」

「って、事は、あの子、道明寺の血を引いてるのか?」

「そう言うとこになる」

ワイングラスに残っていた赤ワインを一気に飲み干した司は、
幼馴染みの顔をぐるりと見渡しながら言う。彼らも、庭に居る
つくしへと視線を移していた

「あきら、広野新一って、投資コンサルタント聞いたことあるか?」

「いいや、知らねぇな。その男がどうした?」

「ちょっとな・・・・」

「探ってくれないか?」

「そりゃ、構わねぇけど、偽名かも知れんぞ」

「道明寺帝国を崩壊させんの?」

「いいや、潰す訳には行かねぇ。あくまでも手を引いて貰うだけだ」

「どてっ腹に、鉛の弾ぶち込まれて、それでも
 意気揚々としてる、親父さんって、経済界のアル・カポネでも
 目指してんのか?」

あきらの言葉が父、誠が悪事の限りを尽くした事を
要約している
傘下の系列グループは、骨の髄までしゃぶり
乗っ取りを重ねて手に入れてきた
なのに、道明寺財閥は、乗っ取られないよう、株式は非公開
ファミリーで、株を分配している

「ファンドを立ち上げて、系列グループの大株主に俺がなる」

「若葉会を再開するってのは、資金の調達の為に?」

「そんなとこだ」

「水面下で、それをやるには、無理がある」

美作グループは、主に、不動産業を生業にしている
海千山千の古狸達にも顔が利く
あきらも、司に負けず劣らずの度胸と人脈、人を見極める目を
持っている

「だから、広野新一に、動いてもらうんだよ」

「つくしちゃんを巻き込む事だけは、やめろよ」

歯止めが利かなくなるまで、遣り合うような事はするなと
類が、珍しく感情的になっている

「わかってる・・・・」

「そこまでして、一緒になりてぇーって一大決心だな」

総二郎も、これまでと違う、司の様子が気になっていた

庭では、ギャルソンが、つくし達に、お茶を運んできていた

「司様の本命は、やっぱり、あの子だったんだ」

庭に居るつくしが、店内から見守る、司に、手を振って来た
司が、ニコリと笑って大きな右手を顔の辺りまで挙げて答えている
どこにでもいるような平凡な女を司が選んだ事が
意外に思えて、ギャルソンは、気づかれないように
目をスライドさせて、様子を伺っている
優しく笑う司にお目にかかったのは、
つくしと初めて来店した時以外、見たことがない

「やな、女・・・・」桜子の嫉妬心は、メラメラ燃えていた